JR神戸線の灘駅から神戸市立王子動物園に向かうミュージアムロードを上り、左折すると横尾忠則現代美術館の建物が見えてきます。このあたりは兵庫県立美術館を筆頭に複数の美術館が立ち並ぶ美術の街。その中に横尾忠則現代美術館はあります。
横尾忠則さんの作品は、現代美術の中でもまさしく「コンテンポラリーアート」といわれるジャンル。古典美術の世界とは一線を画した美の世界が広がる美術館となっています。
今回は、横尾忠則現代美術館に足を運んでみたのでご紹介します。
めくるめく「横尾ワールド」へようこそ

横尾忠則現代美術館に訪れてみたいと思ったきっかけは、横尾忠則という稀代の芸術家が描いてきたあまりにも多彩なテーマの作品群が一堂に会していると聞いたからです。グラフィックデザイン、絵画、そして音楽……。一人の人間の脳内から、これほどまでに異なる色彩と概念が溢れ出すのはなぜなのか。その源流に触れてみたいと思ったのです。

こちらが横尾忠則現代美術館。もともと兵庫県立美術館の西館だったものをリニューアルして横尾忠則現代美術館が設立されました。
横尾忠則の出身が兵庫県西脇市であることや、神戸新聞社でグラフィックデザイナーとして活躍していたことなど、兵庫県と関係が深いことも美術館開館に関係があるのでしょう。
Y字路の先にある、説明のつかない郷愁

私にとって、横尾忠則といえば真っ先に思い浮かぶのが「Y字路」シリーズです。
なぜ、私たちは道が二つに分かれるあの風景に、これほどまで切ない感情を抱いてしまうのでしょうか。
選ばなかった道への未練か、あるいはどちらにも行けない宙吊りの不安か。心にトゲのように引っかかる何かがあるからこそ、横尾忠則もまた、この風景を創作の対象として求め続けてきたのかもしれません。

今回目にすることができたのは、「西脇」という赤をモチーフにした作品。
著作権の関係でここで写真をお見せできないのが残念ですが、それは私の知る「Y字路」の中でも、少し異色で、激しく、どこか幻想的な熱を帯びた一枚でした。画面から溢れ出す赤色は、単なる風景画の枠を超え、観る者の網膜に直接訴えかけてくるような力強さがありました。
コラージュという時代の感性

横尾忠則の代表的な技法のひとつにコラージュがあります。
ポスター文化が花開いた時代に、商業美術とアートの境界を軽やかに飛び越えていくような作品群は、今見ても新鮮。異なるジャンルの要素を貪欲に取り入れ、ミックスしていくそのスタイルは、音楽のサンプリングにも通じる先駆的な見識を感じさせます。あらゆる境界を軽やかに飛び越えていく。その身軽さこそが、彼の芸術の本質なのでしょう。
美術館で音楽を聴くという体験

驚いたのは、視覚芸術の展示の中に突如として現れた「音楽」の存在です。
細野晴臣氏との共作でも知られる名盤「COCHIN MOON(コチンの月)」。
なぜ、横尾忠則が音楽制作へ?そんな疑問を抱きつつも、会場で流れる音源に耳を傾けると、少しずつ高揚感に包まれていきました。知る人ぞ知る多彩な才能の結晶が、そこにはありました。美術館で音楽を聴くという体験は、静寂を守るのがルールの既存の鑑賞スタイルを鮮やかに裏切る、実に斬新で贅沢な時間でした。
愛猫タマが教えてくれる芸術家の素顔

忘れてはいけないのが、愛猫タマを描いた作品群。
タマを描きたくて描いたという素直な気持ちがそのまま作品に滲み出ていて、見ているこちらまで頬が緩みます。激しい色彩や強烈なモチーフが多い横尾作品の中で、タマはどこか柔らかく、温もりを感じる作品となっていました。
こうした「ほっこり」する作品を通じて、横尾忠則の心の内を少しだけ覗かせてもらえるのも楽しみの一つです。
4F「キュミライズ・トゥ・アオタニ」で深呼吸

作品のエネルギーに当てられて少し火照った体を休めるなら、4階にある「キュミライズ・トゥ・アオタニ」が最高の場所です。
なぜかここには、深く一息つける静かな空気が流れています。

大きな窓の向こうに広がる灘の街並み、そして堂々とそびえる摩耶山。
ダイナミックな作品群を鑑賞した後に眺める神戸の景色は、いつもより少しだけ鮮やかに見えました。
締めくくりは、ミュージアムショップ

最後は、立ち寄らずにはいられないミュージアムショップへ。
横尾忠則のエッセンスが凝縮されたグッズたちは、見ているだけでも感覚が刺激されます。一点一点の個性が強く、まるで作品の破片を持ち帰るようなワクワク感がありました。
横尾忠則現代美術館はいかがでしたか。
行く前は、横尾忠則という世界観の強さに、少し身構えていた部分もありました。ハードで、毒気があって、圧倒されるのではないかと。
けれど、実際に展示を目の当たりにすると、不思議と心は「無心」になっていました。圧倒的な情報量の中に身を置くことで、かえって余計な思考が削ぎ落とされていくような感覚。
ここは、一人でじっくり作品と対話するのも良いですが、意外と恋人やご友人と一緒に訪れるのも悪くないかもしれません。お互いの「引っかかり」を共有し合うことで、新しい発見があるはずです。
ジャンルに縛られず、常に変容し続ける「横尾忠則」という名の芸術。
その迷宮のような世界を彷徨った後は、少しだけ、世界を見る目が変わっている自分に気づくはずです。
横尾忠則現代美術館の詳細情報
住所:〒657-0837 兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
電話番号:078-855-5607
営業時間:10:00-18:00(入場は17:30まで)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
アクセス:
JR神戸線「灘駅」下車 徒歩約10分
阪急神戸線「王子公園駅」下車 徒歩約6分




