「この街の子育てのことは、『コドモト』を見れば全部わかるようにしたい」
横浜市港南区を中心とした子育て情報サイト「コドモト」を立ち上げたのは、田村朋子(たむら ともこ)さん。
「コドモト」は、年間約100万アクセス。
多くの方にご利用いただいている「コドモト」は、地域の子育てを支える情報の懸け橋になっているだけでなく、子育て事業に携わる方々をつなぐメディアにも成長しています。
「コドモト」を立ち上げるきっかけになったのは、田村さん自身の子育て時代の経験でした。
当時、近場で子どもと出かける場所をインターネットで探しても、地域の子育て情報はほとんど見つからなかったそうです。
「情報がまとまっているサイトがどこにもない」という課題を解決するために、田村さんは2017年に「コドモト」を立ち上げました。
2019年にはNPO法人化。現在は「情報発信」「場づくり」「防災」の3本の柱で活動し、地域の子育てを支え続けています。
「コドモト」を立ち上げるまでの8年間の歩みと、その原動力についてお話を伺いました。
「情報の力で人と人をつなげたい」がコドモトの出発点

田村さんが地域の情報メディアを作ろうと構想を練り始めたのは、2015年。
当時、田村さんのお子さんは3歳と1歳。2人の子どものワンオペ育児で体力的にも精神的にも大変だったといいます。
「子どもを連れて出かけたいと思って、ネットを検索しても情報が出てきませんでした。特に、引っ越してきたばかりの頃は、近所の公園がどこにあるかすら分からず、困りましたね」と田村さんは当時を思い出して語ってくれました。
田村さんの自宅から子育て支援拠点までは、ベビーカーを押しながら歩くと片道およそ25分。
子育て支援拠点に置いてある、子育てサロンのチラシを取りに行くのも一苦労。買い物したくても、おむつ替え台があるかどうかもわからない…。親子で楽しく過ごせる場所の情報が、圧倒的に足りませんでした。
「地域の子育て情報がなくて困っている人は、私だけではないかもしれない」と、田村さんはこの現状をどうにか変えたいと思うようになりました。
当初、子育て世代が集まれる居場所を作ろうと考えましたが、資金面を考えると実現は難しかったそうです。
「居場所づくりが難しいのであれば、この街の子育てのことがわかる、情報サイトを作ろう。情報の力で人と人をつなげたい」という田村さんの想いが、「コドモト」の出発点でした。
専業主婦が1人で作り上げた理想のメディア

「コドモト」を作ろうと思った田村さんは、すぐに行動に移しました。
「お出かけスポットや公園の登録、子育て紹介記事を書くのは、私と同じママたちを想定していました」と語る田村さん。
コドモトのサイトは、単なるブログではなく、ユーザー登録やポイントシステムを備えたオリジナルメディアにするという構想を、当初から練っていたといいます。
過去にゲーム業界でのキャリアがあり、自ら会社を起こしてオンラインサービスの開発も行ってきた田村さんは、「自分で勉強すればできる」と独学でプログラミングを習得し、1人で「コドモト」をつくりあげました。
「コドモト」を制作したあと、Web制作業界の方に「外注で作ったら1000万円以上かかりますね」と言われたそうです。
当時、田村さんは専業主婦。
地域の預かり施設に2人の子どもを預け、近くのファミレスでパソコンを開き、週に1回3時間、それが当時の田村さんに確保できた精一杯の時間でした。
驚異的な行動力の秘訣をお伺いしたところ「頭の中で絵を描いちゃったからだと思うんですよね。このメディアができれば、この地域で子育てしている人たちが便利になるという未来絵図があったんです」という答えが、笑顔の田村さんから返ってきました。
「コドモト」のメディアを成功させるために、投資家から資金調達をしようと奔走していた時期もありました。
ただ、投資を受けるとなると、成果や数字で応えなければならない責任が生じます。
「コドモトに情報を登録するメンバーは、みんな普通のママ。子育てしながら楽しく続けられる形を大事にしたかった」と田村さん。
社会に資するこの活動をメンバーが自信を持って行い、無理なく続けていくために、営利法人ではなく、NPO法人という形で2019年に法人化しました。
「こういう情報が欲しかった」と行動してくれたママ友たち
「コドモト」が最初に取り組んだのは、公園情報の収集でした。許可が不要で誰でも始められるという理由からです。
近所のママ友に「こういうのやろうと思うんだけど、一緒にやってくれない?」と企画書を見せて片っ端から声をかけていきました。
賛同してくれた仲間たちの熱量は、田村さんの想像を超えていました。
「暑い中、自転車を走らせて、1日に何か所も公園を回ってくれました。1人で300か所行ったメンバーもいます」
熱量の背景には「こういう情報が欲しかった」という切実な想いと強い共感がありました。
水遊び場でのおむつ着用の可否、幼児向けの遊具がある公園はどこか、外出先で子どもにご飯を食べさせられる場所があるか。
自分たちが普段の子育てのなかで感じていた不便を、誰かのために解消できる。その実感が、仲間たちを動かしていたのです。
サイトでは、多くの人がスポット登録をすることを考え、「誰でも同じ情報を投稿できる」仕組みを整えました。
公園やお出かけスポットの場合は「初めて子ども連れで行く方が知りたいこと」をチェック項目化し、誰でも同じクオリティの情報を登録できるようにしています。
投稿するとポイントが付く仕組みも導入し「普段の子育てが誰かの役に立つ」という循環を作りました。
「もし子どもに何かあったら」から始まった防災への挑戦
「コドモト」の発信軸である「情報発信」「場づくり」「防災」のうち、特にユニークなのが防災事業です。
コドモトの発信を続けていた田村さんに、大学時代の同級生であり防災専門家の三平洵(みひら じゅん)さんから、思いがけない連絡が届きます。
「『防災の世界は男性ばかりで、家庭のことが全然わからない。子どものこともわからない。お母さんの視点が絶対に必要だから、一緒に防災について広めよう』と声をかけてもらって」と田村さんは当時のことを語ってくれました。
田村さんのお子さんは、2011年の東日本大震災の1年後に生まれています。いつまた災害が起きるかという漠然とした不安はありましたが、何をすればいいかわからず、数年が過ぎていました。
その後、防災と食の専門家でもある、しのとうさとみさんとも出会い、オリジナルの防災ワークショップを次々と企画しました。
おんぶの仕方を教える講座や、災害用伝言ダイヤル(171)のワークカードの作成など、家庭の防災に特化したプログラムを展開しています。
その成果は『親子のための防災ハンドブック』として形になり、2021年より横浜市内で毎年1万部が無償配布され、2025年度までの累計発行数は5万部となりました。現在は「子育て防災支援員」の資格認定講座も実施しており、子育て中の方、保育関係者や子育て支援拠点のスタッフ、防災士など多くの方が受講しています。
「もし子どもに何かあったらと思う人は多いと思います。また関心がない人にこそ、しっかり知っておいてほしいです。幼稚園や保育園のような一堂に集れる場所で、直接伝えていきたいと思っています。そのために、全国に講座を広げたいんです」と田村さんは防災の重要性について語ってくれました。
親の余白がないと、子どもとゆっくり過ごせない
コドモトが活動を始めた8年前と比べ、子育てを取り巻く環境は変化しています。
父親の育児参加率は目に見えて上がり、保育園に通う子どもも増えました。一方で、田村さんは新たな課題も感じています。
今は保育園や家事代行サービスなど、子育てを支えるサービスも多いです。
それ自体はいいことですが、母親が働きに出ていると、帰宅後に子どもの世話をするのは、時間がなく大変です。
「子育てが楽になった部分はあると思う。でも、親自身に余白がない。子どもとゆっくり過ごす時間が欲しくても、体力的に余裕がないんです」と、田村さんは現代の子育てのあり方に疑問を投げかけます。
共働き世帯が増え、親子が一緒に過ごす時間は減っています。フルタイムで働いて、帰宅後は食事・入浴・寝かしつけで精一杯という現状です。
「ぜひ『コドモト』を活用してほしいです。地域の情報を届けるだけでなく、イベントを通じて人と人が出会うきっかけをつくる。出かけていくことで、友達や頼れる仲間ができたり、家族が一緒に過ごす時間が生まれたりする。必要な情報が得られ、毎日の子育てがちょっと楽になる。それが『コドモト』の役割です」と、田村さんは笑顔で話してくれました。
「子育てって楽しいよね」が当たり前の社会へ

「コドモト」は年間約100万アクセスで、地域のお出かけ情報を中心に、多くの子育て世帯に利用されています。しかし田村さんは「まだ描いた絵の20%くらいしか実現できていない」と話します。
田村さんが目指しているのは、全国どこでも使える子育て情報のプラットフォームです。
地域の人たちが自分の街の情報を投稿し、地域の居場所を支える仕組みを作りたい。子育てカフェや支援拠点のような場所に、情報と人が集まり、そこに小さな経済が生まれる。その循環が、全国の子育ての現場を底上げすると、田村さんは信じています。
「コドモト=子どもと」というメディア名は、「母親だけが子育てを背負う状況を解消しなければ、子育てしやすい社会は実現できない」という強い思いから、あえて「ママ」という言葉を外して考案されました。
ママだけでなく、パパ、おじいちゃん、おばあちゃん、そして地域のみなさんも含めた社会全体で子どもを育てていく仕組みを作りたい。そんなビジョンが込められているのです。
「子どもといる時間って、過ぎてしまうと結構あっという間なんです。子育てが楽になることを『コドモト』で提供できたらいいなと思っています。子どもを育てることは大変だけど、子育てって楽しいよね!と笑い合える社会にしていきたいです」と田村さんは力強く語ってくれました。
コドモト
コドモト公式HP:https://www.kodomoto.info/
コドモトX:https://x.com/_kodomoto_
コドモトInstagram:https://www.instagram.com/_kodomoto_/




