
那須烏山市は、栃木県東部に位置し、八溝山系の山に囲まれ、関東随一の清流である那珂川が流れる自然豊かな街です。市内には、JR烏山線が通っており、日本初の蓄電池駆動電車ACCUM(アキュム)が運行しています。
2025年8月、JR烏山線の終点である烏山駅の近くに、元診療所をリノベーションしたカフェがオープンしました。店主は、那須烏山市で生まれ育ち東京で会社勤めをした後、地元にUターンした長谷川貴之さん。
今回は、地元に戻りカフェをオープンした理由やオープンまでの経緯、地域への想いなどをお伺いしました。
生まれ育った街の風景を守るためにUターンを決意

写真提供:喫茶院アルッテ
店主の長谷川さんは、那須烏山市で生まれ育ち、就職は東京で会社員として働き始めました。そのまま定年まで務めあげるつもりだった長谷川さんでしたが、30歳の時に転機が訪れ会社を辞めることを考え始めます。そのタイミングで、出身中学校が廃校になった話を耳にしたのです。
「廃校はいずれくるだろうとわかってはいたのですが、久しぶりに中学校を見に行ったら、グラウンド一面にソーラーパネルがぶわーっと敷かれていたんです。中学生の頃、野球部で頑張っていた思い出があるグラウンドにソーラーパネルが敷かれている光景をみたら、胸がぎゅっとつかまれる様な思いになりました」
長谷川さんは、昔の面影を失ったグラウンドを見ながら、生まれ育った街の風景が少しずつ消えてしまうことに悲しみを覚えます。誰かに「あなたの出身地はどこですか?」と聞かれたときに、「那須烏山市です。でも今はもうないんです」という会話が成り立つ未来がいつか訪れるかもしれない。それをどうにか止めたいと考えた長谷川さんは、地元に帰る決心を固めます。
元診療所との出合いから生まれた喫茶院アルッテ

写真提供:喫茶院アルッテ
元々実家が呉服店を営んでおり、いずれはお店を開きたいと思っていた長谷川さん。地元でお店をやるなら人が集まり交流できる場所を作りたいと考えます。
「さまざまな年齢層の方が集まれる場所は何だろうと考えました。居酒屋などお酒を出す場所だと大人向けになりがちですが、カフェなら敷居が高くなく高校生や親子連れでも行きやすいと思ったんです」
カフェを開店することになった元診療所との出合いも、偶然と思いもよらぬつながりからでした。
「たまたま市内を探索していたときに診療所を見つけて、那須烏山にはこんな素敵な建物がまだあるんだなと思いました。でも外から見ると使われていないなと思って」
家に帰宅後、見つけた診療所について母親に話すと、診療所は取り壊され更地になる予定だと聞かされます。長谷川さんは、すぐに診療所の持ち主である院長の息子さんと知り合いだった母親を通して連絡を取ります。そして、「診療所を活かしてカフェをオープンしたい」と話したところ、持ち主の承諾を得られ、無事長谷川さんが譲り受けることになりました。
お店の名前は、“小さな街のお医者さんのように心を癒す”というコンセプトから、“喫茶店”ではなく“喫茶院”としました。アルッテは、“歩いて行く”を意味する栃木の言葉と、“医者”を意味するドイツ語「Arzt(アルツト)」の響きを重ねています。
地元の人気店のケーキを提供

写真提供:喫茶院アルッテ
珈琲とともに食べたくなるのが美味しいデザート。しかし、長谷川さん1人で店を回すとなるとケーキなどのスイーツを作れるだけのマンパワーはありません。お店で出すスイーツをどうするか悩んでいるときに、地元の人気ケーキ店パティスリーヒラサワの御主人と知りあいました。
「ヒラサワの御主人とは、住んでいる自治体が同じでお互いの子どもの年齢も近かったことから仲良くなりました。しかも年齢も1つ違いで子どもの頃は同じ幼稚園に通っていたことも判明したんですよ」
実は、パティスリーヒラサワには店内にイートインスペースが少なく、その場で食べたいというお客様の要望に応えられないときがありました。そのことを知った長谷川さんは、ぜひカフェでヒラサワのケーキを提供したいとお願いして、実現しました。
地域のサードプレイスとして

写真提供:喫茶院アルッテ
開店前は、「元診療所をリノベーションしたカフェ」という珍しさから、市外からのお客様が多いのではと予想していたそう。いざ開店してみると、地元のお客様で連日にぎわいを見せているといいます。
「これは予想外でした。柱や屋根裏、机などは当時の物をそのまま使っているので、当時病院で働いていた方や通院していた方が来てくれて懐かしがっていますね。近隣の方や病院にゆかりのある方が訪れてくれることが多く、やはり地域のサードプレイスとなる場所は必要だったのだと実感しています」
現在は昼営業のみですが、夜も営業したいと考えているのだそう。しかし、店主1人で切り盛りしているため、なかなか難しいのが現状です。
「夜営業を間借り営業で誰かに使ってもらうのもいいかなと思って。お昼はカフェで、夜は和食屋さんとか、そういう使い方が出来るんじゃないかとも考えています」
そして、今後は小規模なイベントも開催していきたいと考えています。
「ゆくゆくは、音楽イベントやマルシェを開催してみたいです。手作りで小物を作っている人は多いのに披露できるようなイベントがないんですよね。お店を使って企画展示などのイベントができたらいいなと思っています」
カフェは2025年8月にオープンしたばかり。今後、夜営業やイベントが開催される日が来るかもしれません。
〝自分のやりたいこと”を見つけてほしい

写真提供:喫茶院アルッテ
地元を盛り上げるために新たにカフェをオープンした長谷川さん。若者が新しいことにチャレンジしていける雰囲気や場所づくりを進めていきたいと語ります。
「何かにチャレンジしたいと考えている若者には、自分が何をやりたいのか常に考え続けてほしいと思います。自分の本当にやりたいことが見えてくると、次は何をすればいいかが見えてくるはずです。最初は漠然とでもいいので、自分がやりたいことを考え続けてほしいなって思っています」
続けて、「地域のためという大義名分だけだと自己犠牲に陥りがちですが、自分がやりたいことなら続けられるはず」と長谷川さんは語ります。自分のやりたいことを継続していけば、自然とそれが地域のためになったり、誰かと連携して何かを生み出すことにつながったりすると実感しているそうです。
さらに、自分のやりたいことが見つかったら、その道で成功している人に会いに行ってほしいともいいます。
「僕も珈琲のことや地域で事業をしている人を調べて、栃木で古民家カフェを営んでいる日光珈琲の風間さんに会いに行きました。会いに行くことで自分のやりたいことがより明確になり、味方にもなってもらえました」
自分のやりたいことを見据え着実に叶えてきた長谷川さん。今後も地域に癒しと新しい風をもたらしてくれるに違いありません。
店舗情報
喫茶院アルッテ
住所:栃木県那須烏山市金井2-13-15
アクセス:JR烏山線 烏山駅から徒歩5分
駐車場あり
営業時間:水・木・金 11:00~18:00
土・日 9:00~17:00
定休日:月・火(不定休あり)
公式Instagram:https://www.instagram.com/kissainn_arzte_karasuyama/




