観光地として多くの人が行き交う岐阜県高山市。古い町並みや朝市、名物グルメを巡って歩いていると、気づかないうちに足取りも少し慌ただしくなります。そんな街の空気から、ふっと距離を置くように現れるのが、「喫茶とり珈琲」です。
派手な看板や賑やかな呼び込みはなく、静かに「COFFEE」とだけ書かれたサイン。扉を開ける前から、「ここは急がなくていい場所」だと伝わってきます。
観光地のすぐそばでゆっくりできる場所

「喫茶とり珈琲」は、高山の中心エリアから徒歩圏内にありながら、通りの喧騒が少し和らぐ場所にあります。観光客で賑わうエリアから数分歩くだけで、足音や話し声が自然と小さくなる。その距離感が、この店の立ち位置を象徴しているようです。
「観光の途中に立ち寄る」こともできるし、「ここを目的地にして来る」こともできる。どちらの使い方も受け止めてくれる、ちょうどいい距離感があります。

店内に入ると、まず感じるのは音の少なさです。木を基調とした内装に、落ち着いた照明。カウンターの奥では、バリスタが黙々と珈琲を淹れていますが、その所作も空間の一部として自然に溶け込んでいます。
カウンター席とテーブル席がほどよく配置され、どの席に座っても視界が落ち着く。写真からも伝わるように、無駄な装飾はなく、器や家具、照明そのものが空間をつくっています。冬場にはストーブが置かれ、足元からじんわりとした暖かさが伝わってくるのも印象的でした。
カフェラテとハニーチーズトースト

この日注文したのは、カフェラテとハニーチーズトースト。
カフェラテは、白いカップに丁寧なラテアートが描かれて運ばれてきます。写真を撮る前に、思わずしばらく眺めてしまうほど、表情のある一杯でした。そして飲んでみると口当たりがとてもなめらか。

ミルクの甘さが前に出すぎず、エスプレッソのコクが静かに支えています。飲み進めるごとに印象が変わるというより、最初から最後まで安定した味わいで、自然とペースがゆっくりになります。ラテアートが崩れていく様子さえも、この時間の一部のように感じられました。

ハニーチーズトーストは、厚切りのトーストにたっぷりとチーズ。表面はこんがりと焼かれ、ナイフを入れると中はふんわり。チーズのコクと、添えられたはちみつの甘さが合わさり、甘さと塩気のバランスがとても良い一皿です。途中でピクルスを挟むと、口の中が一度リセットされ、また最初のひと口のような感覚で食べ進められます。
さりげない遊び心。料理提供前に渡されるナンプレ

「喫茶とり珈琲」では、注文をすると一枚のナンプレ(数独)が手渡されます。
コーヒーを待つあいだ、あるいはラテを飲みながら、静かに数字と向き合う時間。店内の落ち着いた空気も相まって、不思議と集中できます。
このナンプレを完成させると、ご褒美としてポストカードを一枚プレゼントしてもらえる仕組み。
用意されているデザインは数種類あり、どれも店の世界観を感じさせるものですが、どんな絵柄に出会えるかは、訪れてからのお楽しみです。
あくまで強制ではなく、「やってもいいし、やらなくてもいい」という距離感も心地よいところ。喫茶店で過ごす時間そのものを、少しだけ楽しくしてくれる、控えめで温かな仕掛けでした。
おわりに
岐阜県北部に位置する高山市は、飛騨高山の名で親しまれる城下町。江戸時代の面影を残す町並みが続き、国内外から多くの観光客が訪れます。
一方で、街全体に流れる空気はどこか穏やか。朝の冷たい空気、昼の賑わい、夕方にかけて人が引いていく時間帯など、その移ろいを感じながら歩くこと自体が、この街の楽しみ方なのかもしれません。
だからこそ高山では、「あえて何もしない時間」を挟むことで、旅がより深く記憶に残ります。「喫茶とり珈琲」は、そんな余白を自然に受け止めてくれる場所でした。
喫茶とり珈琲
住所:岐阜県高山市大新町1-35
営業時間:9:00〜17:00
定休日:木曜日・金曜日




