神戸市北区八多町屏風。田んぼが広がるのどかな風景の中に、黒い木の外壁が印象的な大きな蔵がたたずんでいます。
ここは、明治29年から昭和47年まで醤油を造っていた旧畠中醤油醸造所です。長く使われていなかった蔵が再生され、2026年春「炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵」としてオープンしました。
館内にあるのは、カフェだけではありません。地元の野菜や商品が並ぶ直売マルシェ「どまどま」や、今後活用されるレンタルスペース「のらくら」、元醸造所の多目的スペース「ぽたぽた」もあります。レンタサイクルの貸し出しも始まり、八多町の各所を自転車で巡れます。
今回は醤油蔵の再生を手がけた萩原珈琲代表の萩原さんに、歴史ある建物やカフェの魅力、これから始まる取り組みについてお話を伺いました。
歴史ある醤油蔵を生かした、地域とつながる場所

醤油造りを終えてから約54年。蔵はほとんど使われないまま残されていたといいます。
再生にあたって大切にされたのは、新しく造り替えるのではなく、蔵で元々使われていた素材をできる限り残すことでした。

店内には、長い年月を経た黒い柱や梁と、腐食した部分を除いて木組みされた新たな木が隣り合っています。異なる木の色合いが生み出すコントラストも、炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵ならではの特徴です。

かつて醤油造りに使われていた木桶も、テーブルや椅子、小物へと生まれ変わっています。テーブルは桶らしい風合いが感じられるよう表面を荒く削り、椅子は座りやすさを重視して滑らかに仕上げられたそうです。

長い年月を経た素材に新たな役割を持たせ、今の空間へと生かしているところにも、生まれ変わった醤油蔵の魅力を感じます。
設計や施工、家具の再生には、神戸で活動する建築家や職人、事業者が携わりました。開業前には屏風地区の住民が参加し、蔵の壁を塗るワークショップも開かれています。
「知らない間にできた場所ではなく、地域の皆さんと一緒に作り上げる場所にしたかった」と萩原さん。
壁をよく見ると、場所によって塗り方や表情が少しずつ異なっています。大人や子どもたちが手を動かした跡だと知ると、少し不ぞろいな壁の「クラフト感」も、地域の人たちと一緒につくり上げた証のように感じられました。
炭火焙煎コーヒーと地元食材を味わう

カフェの大きな窓の向こうには、八多町の田園風景が広がっています。
水を張った初夏、青い稲が育つ夏、田んぼが黄金色になる秋。季節によって景色が変わり、訪れるたびに異なる表情を楽しめそうです。

館内には大きな炭火焙煎機が設置されています。蔵の落ち着いた空間に漂うコーヒーの香りと、歴史ある柱や梁に囲まれていると、時間がゆっくりと流れているように感じました。

なかでも注目したいのが、地域の人たちと一緒につくった3種類の「八多町オリジナルブレンド」です。
八多町は大きく3つのエリアに分けられており、「重たい・軽やか・質素・華やか・賑やか・静か」といった6つの要素を使って、それぞれ地域の人が持つイメージを円グラフで表現したそうです。グラフの結果をもとに、6種類のコーヒー豆の配合が決められました。それぞれの土地の個性が、コーヒーの味わいに落とし込まれています。

さらに、パッケージのロゴにも八多町らしさが表現されています。地元の小学生が八多町から思い浮かべるイメージを色で表現し、その色と円グラフの形を生かしてロゴが作られました。
地域の人が感じる八多町の個性が、コーヒーの味だけでなくロゴにも表現されているところが印象的でした。

コーヒーと一緒に楽しみたいのが、地元の食材を取り入れたカフェメニューです。
今回いただいたのは季節のピザトースト。ズッキーニやトマトなど、その時季に採れる野菜がたっぷり使われ、彩り豊かなサラダも添えられていました。季節によって使われる野菜が変わるため、訪れる時期ごとの旬を味わえるのも楽しみです。
地元で採れた野菜を、その土地で味わう。コーヒーだけでなく、食を通して八多町を身近に感じられるのも、炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵を訪れる楽しみだと感じました。
地元のおいしいものに出会える「どまどま」

カフェの入口には、蔵の土間を利用した直売マルシェ「どまどま」があります。
店頭には、八多町をはじめとする近隣地域で採れた野菜や、地元の商品が並んでいました。生産者が直接持ち込むため、訪れる日によって並ぶ品が変わるそうです。

小規模な農家や農業を始めたばかりの人にとって、「どまどま」は大切な販売場所になっています。スーパーではあまり見かけない野菜が並ぶこともあり、「神戸でこのような野菜が採れるのか」と知るきっかけにもなります。
これから始まる「のらくら」と「ぽたぽた」

炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵では、「のらくら」と「ぽたぽた」という2つのスペースも、順次オープンする予定です。
「のらくら」は、ギャラリーや教室、コワーキングなどに利用できるスペースです。作品を展示したり、得意なことを教えたり、地域について学ぶ催しを開いたりと、さまざまな使い方を想定していると伺いました。
専門家だけでなく、誰もが趣味や得意なことを気軽に披露できる場所にしたい。そんな思いが込められた「のらくら」という名前は、「のらりくらり」という言葉に由来しているそうです。

「ぽたぽた」は、かつて醤油造りに使われていた広い空間です。今後は、文化や芸術、音楽、スポーツ、遊びなどを通して、人が集う多目的スペースとして活用される予定です。
お祭りやコンサート、創作活動のほか、結婚式に使いたいという相談も寄せられているそう。使い方を一つに決めず、集まる人のアイデアから新しい活動が生まれる場所になりそうです。
※「のらくら」と「ぽたぽた」は、取材時点では段階的な開設に向けて準備が進められていました。利用開始時期や内容は、公式サイトなどで最新情報をご確認ください。
炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵で、八多町を身近に

炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵は、コーヒーや地元の食、展示や教室などの活動を通して、八多町の住民と神戸市内外から訪れる人をつなぐ交流拠点です。カフェを訪れた人が地域の農産物や暮らしを知り、催しや新しい活動に参加する機会が生まれ、八多町に関わる人の輪が少しずつ広がっていきます。
これから「のらくら」や「ぽたぽた」がオープンすれば、趣味や学び、文化、音楽などをきっかけに、人と人が出会い、新たな交流が生まれていくでしょう。
かつて醤油を醸していた蔵は、今度は人のつながりや新しい活動を“醸す”場所へ。古い蔵の記憶を受け継ぎながら、八多町のこれからを育てる拠点として歩み始めています。
【店舗情報】炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵
住所:兵庫県神戸市北区八多町屏風613-3
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜日・木曜日
アクセス:地域コミュニティ交通「八多淡河バス」屏風辻停留所から徒歩約10分
駐車場:あり
公式サイト:炭火焙煎カフェ 旧醤油蔵
公式Instagram:@shoyugura_cafe




