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もの・こと  |    2026.01.10

さいたま市発・醤油粕アップサイクルが生み出す「新しい燻製文化」イタリアンシェフ&ハム職人が挑むコラボの裏側【後編】

廃棄されるはずだった醤油粕を、食の新素材、醤油粕燻製材としてよみがえらせた、Smoke-i-freet 代表・辻 健太朗さん

前編はこちら

廃棄されていた醤油粕が、香り豊かな燻製材に生まれ変わる|Smoke-i-freetの挑戦【前編】

試行錯誤の末に完成した「彩香の燻醤(さいかのくんしょう)」を携えて、ビジネスコンテストへ出場、受賞したことをきっかけに、地元シェフや職人とのコラボが本格スタートしました。

今回はそのコラボのお相手にもお話を伺いました。埼玉県出身のイタリアンシェフ・門平光正さん(Azzurri KOEDO)と、さいたま市でハム店を営む奥田 聡さん(okuda.ham)のお二人です。辻さんはプロフェッショナルと共に、どのように「食の新素材」と向き合い、いかなる商品を生み出したのか、コラボの経緯を追いました。

イタリア×発酵文化。門平シェフが語る「醤油粕燻製材」の可能性とは

辻健太朗さんと門平光正シェフ(写真右側)

門平光正シェフ プロフィール
埼玉県秩父郡皆野町出身。2014年より渡伊し、ピエモンテ州を中心にイタリア各地で郷土料理や食文化を学ぶ。帰国後は地元・埼玉の食材に魅了され、「地産地消」を軸にしたイタリア料理を追求。
現在は川越の「Azzurri KOEDO」で総料理長を務め、地域の生産者と向き合いながら、埼玉の恵みを生かした一皿を生み出している。また、4年前に狩猟免許を取得、秩父地域のジビエ活用にも積極的に取り組む姿勢が特徴。2024年には、在日イタリア商工会議所主催「全国イタリア料理コンクール」で優勝し、その実力が全国で高く評価された。

イタリアン×和の新素材の出会い

辻さんと門平シェフが出会ったのは、「醤油粕燻製材を活かした料理を一緒に考えていただきたい」と、辻さんから門平シェフへ直接オファーがあったことが始まりでした。

シェフは当時をこう振り返ります。

「面白そうだなと思ったのが最初の印象です。醤油粕の廃棄問題は以前から聞いていましたので、それを活用できるのはいいなと。実際に醤油粕燻製材の香りも面白く、料理人として惹かれましたね」

この瞬間から、イタリアンと醤油粕燻製材のコラボレーションが始まりました。

「日本人の記憶を呼び覚ます香り」をイタリアンへどう活用するか

門平シェフが第一に魅力を感じたのは、醤油粕燻製材ならではの香りでした。

「醤油や漬物を思わせる、どこか日本人が懐かしく思うような香り。食欲をそそると感じました」と、門平シェフ。

一見イタリアンとは遠い存在に見えますが、「イタリア料理の香りの中の一つとして、アクセントに使うのはとてもいいと思います。お客様も普段感じない燻製の香りを『新しい体験』として面白く感じてくれます」と、門平シェフは話します。

「彩香の燻醤」を使用、川越チョウザメを燻製した一皿は、「チョウザメの匂いが全く気にならず、むしろ甘みと香りのバランスが最高」と、辻さんが絶賛するほどのおいしさ。

画像提供:辻健太朗さん

門平シェフ自ら「彩香の燻醤」で燻製した川越チョウザメの燻製生ハム。それは、料理のアクセントとして魅力ある香りを放ちます。

他のチップとは違う個性「色づきの早さ」が醤油粕燻製材の特徴

門平シェフが「彩香の燻醤」の特徴として挙げたのが、油分が多く、食材に色がつきやすい点

「黄色みがかった色づきがとても早い。香りだけでなく見た目の変化が早いんですね」

次に挑んでみたいのはチーズ。日本的な香りは海外でも通用する

「次に醤油粕燻製材を使うならば、チーズですね。日本的な麹の香りは海外でも人気です。スカモルツァを醤油粕で燻したら面白いのではと思います」
※スカモルツァ:洋梨のような形とした、モッツァレラチーズと同じ製法で作られるイタリア発祥のチーズ

和の素材をイタリアンに活かすようになったのは、「生産者の方との出会い」と話す門平シェフ。門平シェフの手により「彩香の燻醤」の魅力がより一層増すのを感じます。

イタリアで修行、自ら狩猟免許を取得し、チーズ作りや加工肉の技術を学んだシェフならではの視点が、醤油粕燻製材の可能性をさらに広げています。

地元の名店okuda.ham × Smoke-i-freet

醤油粕で「新しいベーコン」を。半年の挑戦が生んだ前例ない一品

地元の名店「okuda.ham」で、醤油粕燻製材を使ったベーコン作りに挑んだのは、ハム職人の奥田聡さん。辻さんの「まっすぐな熱量」に、心が動いたといいます。

奥田聡さん(写真左側)と辻健太朗さん

奥田 聡さん プロフィール
さいたま市見沼区のハム・ソーセージ専門店「okuda.ham」店主。都内や神奈川、山梨で肉加工の技術を学び、2021年に独立開業。埼玉県産を中心とした国産素材を使い、添加物を抑えた手作りハム・ソーセージを提供。2022年にはIFFA日本食肉加工コンテストで出品9品のうち6品が金メダル、3品が銀メダルを受賞。さらに2025年も同コンテストで4品が金メダルを受賞している。「素材の味を大切に、安心でおいしい食品を地域に届ける」ことを信念に、今日も店で丁寧に手作りの味を届けている。

出会いは辻さんの「突然の来訪」から

最初の接点は辻さんの突然の来訪。コラボの構想を聞き、面白さを感じながらも少し時間が空いた頃に、さいたま市の鶏肉専門卸売問屋、とりつう株式会社を通じて再び連絡が来たのだと、奥田さんは当時を振り返ります。

「さいたまを盛り上げたい」。その気持ちだけで決断

参加を決めた理由を聞くと、奥田さんは迷いなく、「地元・さいたまのためになるなら、挑戦しない理由はないですよね」と答えました。未知の食材へのワクワクと、地域への想い。その2つが、試作に向かい合う日々を支えました。

まずはベーコンから。家庭でも使いやすい食材を選択

当初、ソーセージも候補に挙がっていたものの、もっと身近で使いやすいベーコンでスタートした試作。

  • 料理の幅が広い
  • 香りの違いが分かりやすい
  • 初めての試作に最適

という理由から、ベーコンを選んだ奥田さんでした。

最大の難関は温度「醤油粕だけで燻す」ことの難しさ

醤油粕燻製材は、木材チップに比べて燃焼温度が低く、扱いが難しい素材です。温度が上がりすぎると焦げた香りが出てしまいます。

奥田さんは、通常の商品とは別のスモークハウスを使用して、

  • 温度
  • 煙の量
  • 時間

を何度も変更しながら試作を続けました。

完成まで約半年。「香りの最適化」に最も時間を費やした

ベーコンの味付けは順調でしたが、

「醤油粕らしい香りをどう引き出すか」

この一点が最大の壁になったと振り返る奥田さん。それでも根気強い試作が続き、ようやく納得のいく仕上がりに到達しました。

完成したベーコンの特徴は、やはり「色合い」と「香り」です。通常のベーコンよりも、色づきがよく、見た目にもおいしさが伝わってくるものに。また、香りは醤油粕で燻製したことにより、醤油の香りを存分に感じられるものに。

「和風パスタなど、家庭でも気軽に使えるようなベーコンとして完成させています」
奥田さんはベーコンの完成を迎え、満ち足りた表情で微笑みます。

ふたりでコラボして作り上げた醤油粕燻製材を使用したベーコンは、Smoke-i-freetにとって、「大きな一歩」となりました。

ジャパニーズスタイルの燻製文化をつくりたい

醤油粕燻製材「彩香の燻醤」の未来について辻さんへ訊ねると、その構想はますます広がっているようです。

  • ふるさと納税での販売
  • 展示会でのPRとさらなる飲食店への拡大
  • 魚・漬物など新たな食材への応用
  • 北米市場へのチャレンジ

などの活動を通して、「日本の発酵文化を燻製という形で世界へ届けたい」と辻さんは意欲的です。

辻さんのその「思い」が、さいたま市発の醤油粕のアップサイクル新素材を、新しい日本の食文化へと押し上げようとしています。

醤油粕燻製材が変える「食の未来」は、まだ始まったばかり

地元を愛する料理人・職人らが、新素材である醤油粕燻製材に新たな価値を生み出した今回のコラボレーション。


その背景には、

  • 地域を思う気持ち
  • 食材の魅力を引き出す技
  • 新しい文化を生み出したい情熱

が、強く感じられました。

そのような「思い」を持つスペシャリストが交わることにより、さいたま市から「日本の新しい燻製文化」が育ち始めています。Smoke-i-freetの挑戦と地元企業との「協働」から、今後も目が離せません。



Smoke-i-freet アップサイクルプロジェクト

公式サイト
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この記事を書いた人

はる

さいたま市在住の取材ライター。地元民だからこそ知り得る、個人店やマルシェ等のイベントをこれまでに200ヶ所以上訪れる。地元民でも意外と知らない「ヒト・モノ・スポット」をお届けします。趣味は「ひとり呑み」「カフェ巡り」お酒とコーヒーが私をこよなく幸せにしてくれます。

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