カフェ・ド・サボン統括マネージャー・深澤花織さんは、息子のアトピーをきっかけに手作り石けんの世界へ入った。大学時代の化学の知識を活かし、アロマテラピーの資格や化粧品製造販売の許可を取得。「好きだけで続けてきた」19年の歩みを語る。
「顔がパンパンに腫れ上がって、いつもかゆいかゆいって泣いて」——深澤花織さんが静かに、噛みしめるように振り返る。息子さんが生後3ヶ月のとき、アトピーの症状が現れた。ステロイドを塗り、無添加と表記された市販のボディソープを試し、それでもなかなか良くならない日々。そんな中で出会ったのが、手作り石けんだった。オープン19周年を迎えたカフェ・ド・サボンを支えてきた深澤さんの歩みは、一人の母親の切実な願いから始まっていた。
「救われた」友人がくれた手作り石けん
——深澤さんがこのお店に関わるようになったきっかけを教えてください。
息子が生後3ヶ月のとき、顔がパンパンに腫れ上がって、いつもかゆがっている状態になってしまって。アトピーの症状が出始めたんです。お医者さんに行ってステロイドを塗ったり、無添加のボディソープや洗濯石けんを試したりといろいろやったんですが、あまり良くならなくて。
——かなり苦しい時期でしたね。
そうですね。周りから「ちゃんと病院に行かなきゃダメでしょ」なんて言われることもあって。ちゃんとやっているのになんで、と思い詰めることもありました。そんな時に前田京子さんという方が書かれた手作り石けんの本に出会って。ちょうどその頃、偶然に友人が手作り石けんを分けてくれたんです。
——使ってみていかがでしたか?
石けんって突っ張るもの、粉をふくもの——そういうイメージしかなかったんですけど、全然違って。カサカサしないどころか、むしろしっとりする。息子に使ってみると、以前よりかゆがることが減り、肌の状態も落ち着いていったように感じました。救われた、と思いましたね。


「作れるんだ」という発見
——そこから自分でも作り始めたんですか?
石けんって作れるんだ、という発見がまず驚きで。早速作ろうとしたんですが、当時は20年ほど前でしたから、材料を集めるのにとても苦労しました。注文しても届くまでに数週間かかったり、値段も高かったり。それでもあらゆるところからかき集めて、作り始めました。
——初めて作った時の感想は?
石けんを作り終えたボウルを洗ったら、泡が立ったんです。まだ使える状態にはなっていないはずなのに。それを見たとき、「あ、本当に石けんだ」ってなって(笑)。あの感動は今でも忘れられません。
友人の誘いでカフェ・ド・サボンへ
——カフェ・ド・サボンで働くことになった経緯を教えてください。
もともと主婦をしながらネットでちょこちょこ物を売ったりしていて、いつかネットショップを開きたいなとぼんやり思っていたんです。そこへ現社長とその奥さん——あの石けんを分けてくれた友人です——から「ネットショップをやるから一緒にやらない?」と声をかけてもらって。「やります!」という感じでした。
——「カフェ・ド・サボン」という名前はどなたがつけたんですか?
3人で考えました。石けんを作る人たちがワイワイ集まって、お茶でも飲みながら石けんの話ができる場になるといいね、というイメージから「カフェ」という言葉が生まれて。サボンはフランス語で石けんという意味ですので、カフェ・ド・サボン、になりました。
化学の学びが、思わぬところで活きた

——ハーブや精油の資格も取得されているんですね。
石けん作りをしているうちに、自然とハーブやアロマの世界にも興味が広がって。NARD JAPAN認定アロマテラピーアドバイザー、AEAJ認定アロマテラピーインストラクター、JAMHA認定ハーバルセラピストなどの資格を取りました。好きなことなので、学ぶのが楽しかったです。今でも折に触れ資料を開きます。
——化粧品製造販売業許可・化粧品製造業許可も取得されていますね。
手作り石けんを化粧品として販売するのに必要な許可なんです。実は大学で化学を専攻していたのが役に立ちまして。作文が嫌いで理系に進んだんですけど(笑)、まさかここで活きるとは。苦手なことから逃げていたら、思わぬところで好きなことにつながっていた——そんな感じですね。
19年間、好きだけで続けてきた

——仕事をしていて楽しいと感じる瞬間はどんな時ですか?
毎日毎日、楽しいです(笑)。特にお客さんからのレビューやメッセージを読む時ですね。「魂のごちそう」って言うんだそうですけど、本当にそうだなと思って。あれを読むと、またがんばろうって思います。
——逆に、大変だと感じることはありますか?
自分では大変だとあまり思わないんですけど……強いて言えば、ずっと仕事してしまうことですかね、仕事が好きすぎて(笑)。お休みの日にどこかへ出かけても、気づいたらマーケティングを考えたり商品のリサーチをしていたりすることがよくあります。
——「まごころ」をこめる、がお店のモットーとお聞きしました。
注文のたびに、○○様ありがとうございます、と思いながら荷物を詰めています。1日2、300件を超えていた頃は難しいときもありましたが、今は規模を絞ったぶん、ひとつひとつにしっかり向き合えるようになりました。開封しやすいようガムテープの端を折り返したり、中身が折れないよう工夫したり——そういう小さな気遣いって、ちゃんとお客さんに伝わるんですよね。

——一時閉店から再開までのことを聞かせてください。
2024年3月に一旦閉めたんですが、再開するつもりで閉める旨をお伝えしていたにもかかわらず、「辞めないで」「寂しいです」というメールがたくさん届いて、衝撃でした。3ヶ月後にネットショップを再開すると、今度は「実店舗はいつ再開しますか」という問い合わせが毎日のように届くようになって。2026年2月に実店舗を再開したら、「ついに再開したね〜!」とわざわざ県外から来てくださったお客さんもいて、本当に嬉しかったですね。
——印象に残っているお客さんとのエピソードはありますか?
毎年開催している「手作り石けんコンテスト」が印象深いですね。お客さんとスタッフが投票してグランプリを決め、受賞された方の石けんが実際に化粧品として商品化されるという企画なんです。受賞されたお客さんに商品をお渡ししに、北は北海道、南は長崎県まで直接お会いしに行きました。ご自身で作られた石けんが商品として形になって、それを手にされたときの嬉しそうな表情が今でも忘れられなくて。この仕事のやりがいを改めて感じた瞬間でした。
——今後チャレンジしたいことはありますか?
もっと実店舗を広げたいですね。石けん教室も再開したので、より多くの方に楽しんでいただける場にしていきたい。お客さんと直接顔を合わせてお話しできる場を、もっと増やしていきたいです。
——最後に、読者の方へメッセージをいただけますか?
薬に頼ることも大事なんですけど、もっと自分の自然治癒力を信頼してみるのもいいんじゃないかと思っていて。忙しい毎日の中でちょっと立ち止まって、自分のために、家族のために、自然のハーブや精油に触れてみる。全部を変えなくていいんです。少しだけ自然のものを取り入れてみる——そういうことから始めてみてほしいなと思います。
——19年間、その信念がずっとぶれていないんですね。
息子のアトピーをきっかけにこの世界に入って、好きだからここまで続けてこられたという感じです。好きなことで、人に喜んでもらえる。こんな嬉しいことはないですよね。

まとめ
苦手な作文から逃げて理系へ進んだ学生時代、まさかその化学の知識が石けん販売の許可取得に役立つとは思っていなかったと深澤さんは笑う。逃げた先で、好きなものに出会った。息子の肌を守りたいという母の思いが、19年間続いてきたお店の根っこにある。自然の力を信頼し、丁寧に暮らすヒントを求める方は、ぜひカフェ・ド・サボンの扉を叩いてみてほしい。
カフェ・ド・サボン 店舗情報
| 住所 | 〒400-0032 山梨県甲府市中央2丁目5-29 マイヅルビル4F |
| 電話 | 050-5482-3535 |
| 営業時間 | 火・水・木・金 13:00〜17:00 |
| 定休日 | 月・土・日・祝日 |
| ※営業日・営業時間は変更になる場合があります。最新の情報は公式Instagramをご確認ください。 | |
| アクセス | JR甲府駅から徒歩6分(専用駐車場なし・近隣にコインパーキングあり) |




