
キャンプを通じて多くの子どもたちと向き合い、その成長を支えてきた原田順一さん。子どもたちへの深い愛情と教育への情熱で、活動の幅を困窮家庭の支援活動にも広げています。
後編では、原田さんが取り組む支援活動や、アウトドア教育を通じて描く未来への展望について紹介します。
「参加できない」を失くしたい 困窮家庭やひとり親家庭への支援活動

子どもキャンプは子どもの成長に繋がる一方で、参加費用や送迎の問題などがあり、困窮家庭やひとり親家庭の参加は難しいのが現状です。そこに対する支援も多くはありません。
そこで「参加したくてもできない子がいるなら、何かできることはないか」と考え、2つの支援活動を始めました。
1つめは、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンのコーディネーター活動です。
チャンス・フォー・チルドレンとは、教育格差や体験格差の解消を目指して活動している団体。経済的理由で習い事や自然体験などの機会が少ない子どもに向けて、習い事や体験活動で利用できるポイントを提供しています。原田さんは、ポイントの利用対象となる家庭と、プログラムを提供する事業者を繋ぐ活動をしています。
2つめは、原田さんが事務局を運営しているネットワーク組織・一般社団法人日本アウトドアネットワークでのひとり親家庭支援事業です。
日本アウトドアネットワーク加入団体には、ひとり親家庭向けにキャンプ参加枠を提供してもらいます。そして、その提供に対して日本アウトドアネットワークから支援金を支給します。これにより、ひとり親家庭が少ない負担でキャンプに参加できる仕組みとなっているのです。
この支援活動が広がれば、より多くの子どもたちに手を差し伸べられるようになります。原田さんはその実現に向け、全力で取り組んでいます。
誰もが参加できるキャンプを ユニバーサルキャンプの構想

将来的には、経済的な問題や障がいの有無にかかわらず、すべての子どもが参加できる「ユニバーサルキャンプ」の実現を目指しています。
世の中には、障がい児向けなどターゲットを絞る形でのキャンプ事業はありますが、様々な背景を持つ子どもたちが一緒に参加できるミックス型のキャンプは多くありません。
子どもの頃から障がいのある子とない子が分けられた環境で育つと、「違う存在」という意識が生まれやすく、相互理解が難しくなりがちです。幼い頃から分け隔てなく接する機会を持つことは、差別のない社会づくりにもつながると考えています。
その一方で、課題も多くあります。ユニバーサルなキャンプを行うには、専門知識を持つスタッフを確保する必要があります。また、多くの保護者の理解を得ることも必要です。
「乗り越えるべきハードルはありますが、専門家とも連携しながら実現に向けて模索していきます」と原田さんは話します。
みんなのアウトドアを子どもたちの第二のふるさとに

原田さんは、みんなのアウトドアの基本理念のひとつに「ふるさとを思う心」を掲げています。
ここでの「ふるさと」とは、自然豊かな祖父母の家のように「また行きたいと思える場所」のことです。毎年夏休みに遊びに行けて、ずっと繋がり続けられる場所。それを持たない子どもたちが、都会には多くいます。
原田さんはキャンプを通じて、そんな子どもたちに「ふるさと」を作ってあげたいと考えているのです。
この思いを強くしたのは、毎年夏に開催していた島キャンプでの出来事です。ある子どもが、島に到着したとき「ただいま」と呟きました。それを聞き、「毎年来るこの島が、彼にとってのふるさとになっているんだ」と感じたといいます。
子どもたちがいつでも「ただいま」と帰ってこれて、「おかえり」と迎え入れられる。そんなあたたかな関係性でありたいと、原田さんは願っています。
「すべての子どもに自然体験を!」原田さんの挑戦

原田さんは、キャンプを通じて子どもたちの成長を支えてきました。その情熱は支援活動にも広がり、家庭事情に関係なくキャンプに参加できる仕組みを作るなど、多彩な挑戦を続けています。今後も「子どもキャンプ活動」と「支援活動」を両輪に、積極的に事業を展開していく予定です。
子どもたちと真摯に向き合い、あたたかく迎え入れてくれる原田さん。そんな原田さんが作り出すキャンプは、これから成長し社会に揉まれていく子どもたちにとって、大きな心の支えになることでしょう。
基本情報
原田 順一(はらだ じゅんいち)
株式会社Think&Camp代表取締役
みんなのアウトドア代表
ホームページ:https://minodr.com/