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フード  |    2025.01.24

健康にこだわった十割蕎麦|びわ湖が一望できる『伊と咲の』

「妻が『山本山のおばあちゃん』に一目惚れしたのが、湖北に移住した一番の理由です」

滋賀県長浜市の蕎麦店『伊と咲の(いとえの)』の店主、松井伊佐雄さんは語ります。

『山本山のおばあちゃん』とは、毎年冬になるとカムチャッカ半島からやってくるオオワシの愛称です。1998年に観測されて以来、今季で27年連続となる滋賀県湖北地方の山本山への来訪に、多くのファンが魅了されています。伊佐雄さんの妻、咲子さんもオオワシに魅せられた一人。

兵庫県宝塚市出身の松井伊佐雄さんと咲子さんご夫妻は、2020年に滋賀県長浜市で古民家をリノベーションして蕎麦店『伊と咲の』を開店しました。びわ湖を一望でき、運が良ければ『山本山のおばあちゃん』とも出会える立地です。

今回は、松井伊佐雄さんに長浜市への移住や蕎麦店開業のきっかけ、『伊と咲の』のこだわりなどについて詳しく伺いました。

いつか飲食店を経営したかった

『伊と咲の』の店舗看板(画像提供:松井伊佐雄さん)

代々飲食店を経営する家系に育ったという伊佐雄さん。

「本来なら私が11代目だったのですが、父親が早くに他界してしまったので、自分自身が飲食店を継ぐことはありませんでした。でも、いつか飲食店を経営できればいいな……という思いはありました」

元々は咲子さんが料理好きで、近所の人に料理を振る舞っていたといいます。

「以前の住まいでちょっとした料理を提供する店を持てたらいいと思っていたのですが、住宅地だったため、その願いは叶いませんでした。ですので、そこから少し本格的に探すようになったという経緯です」

伊佐雄さんは製薬会社で35年間勤務されていました。また、咲子さんは看護師として32年間勤めていたそうです。お互いに健康に関わる仕事をしていたことで、健康的な食べ物を提供したいとの思いが強かったといいます。

また、実家の飲食店がうどんや蕎麦にかかわっていたこともあり、蕎麦にたどり着いたとのこと。

「健康第一ですね。最近は心を病まれている人も増えているので、古民家で非日常的な空間や時間を提供して、少しでも心を癒してもえれば……とも考えています」

伊佐雄さんは優しい笑顔で語ってくれました。

3年間探して出合ったオオワシと古民家

『伊と咲の』の店舗(右)の外観とびわ湖(左)(写真提供:松井伊佐雄さん)

飲食店の経営を検討するようになり、仕事をしながら約3年間をかけて西日本で場所を探していたという松井夫妻。

「できれば水があって、緑があって、古民家で……というところを探していました。実際に見て回ったのは、中国・四国地方、九州です。やはり飲食店をするとなると、バイカーさんや自転車の方が気軽に立ち寄れるような場所が理想的ですよね」

松井夫妻はさまざまな地域の物件を見て回ったといいます。四国のしまなみ街道などには魅力を感じたものの、よい物件には出合えなかったとのこと。そんなときに長浜市の物件を紹介され、冬の寒い季節に夫婦で訪れました。

店舗前の積雪(写真提供:松井伊佐雄さん)

「滋賀県はビワイチが有名で、びわ湖をバイクや自転車で周遊する人も多いので、飲食店を経営するにはとてもよい場所です。でも寒い地域なので、二の足を踏んでいました」

滋賀県湖北地方は中国(山陽)や四国、九州地方などの暖かな気候とは異なります。北陸地方の気候であり、冬は驚くほど雪深い地域。物件の対象から省こうとした伊佐雄さんの思いはよく理解できます。

きっかけは、現在利用している古民家の物件を見学に来たときでした。目に入ってきたのは、多くの人がバズーカのような大きなレンズを備えたカメラを構え、ずらりと並んでいる光景です。

「一体、あの人たちは何を撮影しているのだろうかと不思議に思って聞いてみました。そうしたら、皆さんオオワシをカメラに収めようとシャッターチャンスを伺っているというのです。しかも、妻がオオワシに一目惚れしてしまいました。物件もまだ見ていないのに『ここにしよう』と言うのです」

一方、咲子さんがオオワシに夢中になっているなか、伊佐雄さんは物件を確認して一目惚れしたといいます。

店舗の窓からはびわ湖が一望できる(写真提供:松井伊佐雄さん)

室内に入ると、大きな窓からびわ湖が一望でき、手前にある県の土地も公園のようでした。見晴らしもよく、飲食店の物件としては最適です。ただし、庭はほぼ荒れ地状態だったといいます。

「半年くらいかけて、少しずつ庭の手入れをやりました。店舗内のテーブルや棚なども手作りのものがあります。出来栄えはあまりよいとは言えないのですが、自分たちでできることはやりました」

切り株を掘り返したり花を植えたりするのは、慣れない作業だったため手間が掛かったとのこと。

食材や健康へのこだわり

『伊と咲の』では、びわ湖で獲れたテナガエビなどの地元で取れた食材を提供している(画像提供:松井伊佐雄さん)

「出来る限り、地元で作られている無農薬、無添加の食材を使いたいと考えています」

蕎麦に小麦は使用せず、グルテンフリーの十割蕎麦にこだわっているという伊佐雄さん。ただし、農業を営むうえで完全に無農薬で農作物を育てるのは難しいと言われることもあります。

それでも、できる限り無農薬、低農薬のものを作ってもらっているとのこと。

関東からの来訪も多い

店舗前にはテレビ取材もあった桜が(画像提供:松井伊佐雄さん)

YouTubeやブログなどで『伊と咲の』を紹介している人が多いこともあり、遠方から蕎麦を食べるためだけに訪れる人が後を絶たないといいます。伊佐雄さんによれば、訪れる客の約半数が長浜市内から。残りの半分は市外から訪れる客とのこと。

「どうしてかわからないのですが、インフルエンサーが紹介してくれているようで、わざわざ関東方面から来られることもあります。一時期はGoogle Mapsのランキングで滋賀県で1位になっていたこともありますが、今はGoogle Mapsのランキング機能自体が無くなったので、本当に不思議です」

店舗の西側(びわ湖側)には桜の木があり、テレビ取材もあったといいます。テレビやネットの情報を見て訪れる人も多く、ときには客足が途切れない日もあるそう。

桜の季節は店内からの眺めも最高(画像提供:松井伊佐雄さん)

「ありがたいことに完売ということもよくあります。そんなにたくさんの蕎麦を打てないので、来ていただいたお客さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

『伊と咲の』は夫婦二人で運営しているため、頑張っても2回転くらいしか回せないといいます。来店時には、早い時間帯の到着がおすすめです。

地域住民とのコミュニケーションも大切

席には咲子さんが書いた己書(画像提供:松井伊佐雄さん)

最後に、地域との関係性について伺いました。

松井さんご夫妻は地域の活動や地域活性化にも協力的です。自治会の人たちとはなるべく多くの交流を持つようにしているといいます。

取材に伺った日も、夕方から自治会の若い人たちとのコミュニケーションのため、食事会を開催されていました。毎年12月31日には年越し蕎麦を振る舞うなど、自治会の人たちに向けてさまざまな働きかけをしているそうです。

店舗の窓から見えるびわ湖の夕暮れが美しい(写真提供:松井伊佐雄さん)

「自治会は20軒程度なので、家族全員で来られてもなんとか対応できる人数です。少しでもお年寄りの方たちに喜んでもらえればいいと思って始めました」

また、メニューにも『片山村人たちの蕎麦』や『片山シフォンケーキ』など、地域名称の『片山』を使って地域活性化にも尽力しています。

咲子さんも己書を地域の人に広めようと尽力しているとのこと。

『伊と咲の』店舗情報

伊佐雄さん(左)と咲子さん(右)(画像提供:松井伊佐雄さん)

『伊と咲の』の詳細情報は以下のとおりです。

店舗情報
  • 営業時間:11:00~14:30(蕎麦がなくなり次第閉店)
  • 定休日:火~木曜日、第1・3・5金曜日
  • 電話番号:0749-59-3206
アクセス
  • 住所:滋賀県長浜市高月町片山27
  • 駐車場:片山漁港の駐車場または自治会駐車場横をご利用ください

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この記事を書いた人

のがわ

滋賀県担当のアラフィフライター「のがわ」です。地元の滋賀県や隣県の福井県に関する情報をお届けします。趣味の剣道は練士七段ですが、試合は中学生にも負けるレベルです。色々な地域に出稽古に行き、出会った方々の物語や観光情報などを記事にします。

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