日本遺産、619年建立の長命寺で出会う“時間の感覚”
ホトトギスが高らかに鳴く、静かで長い山道を進みます。
聞こえてくるのは、歩くたびに足元の落ち葉を踏みしめる音と、鳥たちの声だけ。
まるで映画の中に飛び込んだような景色です。
鳥の声に癒されながら、琵琶湖のそばから続く山道をのんびりと、ひと休みしながら歩いていくと、やがて長命寺の境内が見えてきました。

滋賀・近江八幡にある長命寺は、日本最古の観音巡礼「西国三十三所」の31番目の札所です。619年に聖徳太子によって建立されたと伝わる日本最古クラスの寺院で、日本遺産にも認定されています。
本尊は、千手観音・十一面観音・聖観音の三尊一体(秘仏:「千手十一面聖観世音菩薩三尊一体」)で、長寿や無病息災のご利益で知られています。また、境内には毘沙門天像も安置されており、本尊の三尊とあわせて、計4体の仏像が国の重要文化財として大切に守られています。
また、境内には本堂のほか、三重塔、三仏堂、拝殿など、10を超える大小さまざまな建造物が立ち並び、諸堂の屋根の線が美しく重なり合っているのが印象的です。
こうした佇まいを象徴するように、長命寺では、境内で目にする建造物の多くが国の指定文化財でもあります(2021年に「三仏堂・護法権現社および渡り廊下」が新たに国の指定文化財となりました)。

南へ向く祈り、時を超えて続くもの
「長命寺は観音様のお寺なので、ご本尊をはじめ、ほとんどの仏様や神様は南を向いていらっしゃいます。
というのも、観音様はもともとインドから来られたとされ、観音菩薩の浄土がインド洋、つまりインドから見て南側にあるという言い伝えがあるんです。
それで日本に渡った後も故郷インドの観音様と同じ方角、つまり南を向くとよいとされました」と、副住職が教えてくださいました。
日本の観音様は、遠く離れたインドと同じ想いを共有してきた存在だった――遠い異国の地を想い、はるか昔から同じ方向を向いていることに、時を超えたロマンを感じずにはいられません。

長命寺には、その名の通り「長く生きる」という願いが込められています。
起源は古く、武内宿禰(たけのうちのすくね)がこの山を訪れ、「寿命長遠諸願成就(寿命が長く、願いが叶うように)」という言葉を柳の木に記し、長寿を願ったことが始まりです。
その後、聖徳太子がこの地に伝わる「長寿の願い」の伝承に感銘を受け、観音像を刻んで寺を建立しました。これが「長命寺」という名の由来とされています。


「西国三十三所は、日本で最も古い観音巡礼のひとつで、長命寺はその三十一番札所にあたります。この巡礼が盛んだった江戸時代には、関東からも多くの人が歩いて参拝に訪れていたそうです」と話す副住職。
徒歩で関東から……。現代に生きる私たちには気の遠くなるような距離ですが、それでも人を引きつける魅力が、この場所にはあったのでしょう。


長命寺は、標高約250mの山腹、808段の石段を登った山の上にあります(現在は8合目まで車でのアクセスも可能/比較的勾配がゆるやかな林道を徒歩で登ることもできます)。
一歩足を踏み入れると、響くのは鳥の声と風の音だけ。石段を登りきった先には、待っていたかのように、琵琶湖と山々を見下ろす穏やかな景色が広がります。

この景色を聖徳太子も眺めていたのかと思うと、静けさの中に、建立から1400年以上の時をかけて培われてきた風格を感じます。
なぜ人は、はるか昔からこの場所を目指してきたのか。その理由は、この場所に実際に足を運んでこそ、感覚として理解できる気がするのです。
そんな長命寺には、この土地に伝わる「瓦」という形で、私たち参拝者が建造物の維持に関われる機会があります。
7世紀から続く長命寺の歴史に、一般の参拝者も少しだけ参加できるのです。
詳しくは、「後編:滋賀・長命寺|書いた言葉が屋根と歴史の一部になる、瓦奉納という体験」で紹介します。
長命寺の詳細情報
住所:滋賀県近江八幡市長命寺町157
入場料金:無料
営業時間:8:00~17:00
TEL:0748-33-0031 / FAX:0748-33-8031
車:名神竜王ICより約30分
駐車場:普通車 50 台
※ 8合目の駐車場からも階段があります(約5〜6分)。
公共交通機関:近江バスで近江八幡駅より約25分、「長命寺」下車。
※ ふもとから階段(808段)を登っての参拝は、約20〜25分かかります。
※ 参道(林道)を徒歩で登ることもでき、こちらは比較的ゆるやかな道です。
本記事の内容は2026年4月時点の情報です。




