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歴史  |    2026.04.19

滋賀・長命寺|書いた言葉が屋根と歴史の一部になる、瓦奉納という体験【後編】

聖徳太子によって7世紀に建立されて以来、1400年以上もの歴史を刻む長命寺

前編はこちら

滋賀・長命寺|時間の感覚が変わる場所。聖徳太子建立の西国三十三所の札所【前編】

琵琶湖のそばから始まる山道を抜け、長命寺山の山腹に広がる境内には、10を超える大小さまざまな建造物が立ち並びます。ヒノキの樹皮を重ねた檜皮葺(ひわだぶき)の屋根が重なり合うその景色からは、荘厳な趣と伝統美が感じられます。

その雰囲気を象徴するかのように、本堂や鐘楼、護摩堂、そして一段高い場所に建つ三重塔など、その多くは重要文化財にも指定されています。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)

 

日本古来の伝統技法で作られた、長命寺の建造物。これらの屋根に古くから使われている「瓦」を通じて、私たち一般の来訪者もこの場所の保全に関われる機会があるのをご存知でしょうか?

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)
立派な鬼瓦も目をひく屋根

 

「屋根の一番てっぺん、棟(むね)の部分に使わせていただく瓦になります」

本堂に並ぶ瓦について、副住職がそう教えてくださいました。


これが、長命寺で体験できる「瓦奉納」です。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)

琵琶湖の風土から生まれた近江八幡の瓦

長命寺がある滋賀県近江八幡市、そして琵琶湖周辺は、古くから瓦づくりが盛んな地域として知られています。その背景にあるのが、琵琶湖の良質な水と土。

湖の底に長い時間をかけて堆積した粘土質の土は、瓦づくりに適しており、職人の知恵とともに良質な瓦を生み出してきました。こうした歴史や成り立ちは、市内にある「かわらミュージアム」でも詳しく知ることができます。

 

地域ならではの風土と自然が生み出す良質な素材と、それを支える職人の技術。その積み重ねが、長命寺の建物を支えてきました。

一方で近年は、職人の担い手不足もあり、こうした技術をどう継承していくかが課題になっているそうです。そうした背景を知ると、この瓦奉納という体験も、また少し違った意味を持って見えてきます。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)
長命寺境内からの琵琶湖の眺め

瓦1枚でできる、静かな応援のかたち

長命寺での、瓦奉納の手順はとてもシンプルです。


本堂で受付を済ませたら、筆を取り、瓦に言葉を書きます。
願い事やこれからの目標、名前など、書く内容に決まりはありません。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)撮影(夏子)

 

A4サイズほどの瓦はずっしりと重みがあり、書き終えたものはそのまま納められます。この瓦は一定期間保管されたのち、修繕のタイミングで屋根の一部として使われていきます。


奉納料は、長命寺の境内にある建造物の維持や修繕に充てられるそうです。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)

 

また、奉納のお礼として、香りのよいお香やおせんべいなどをいただけるのも魅力のひとつ。お香は、滋賀県内で、厳選された材料とともに丁寧に作られたものだそうで、こうした心遣いまで持ち帰れるのも、うれしく感じます。

 

自分の言葉とともに納めた瓦が、いつかこの場所の一部になるかもしれない。


それは単なる記念にとどまらず、7世紀から続く長命寺の歴史の延長に、自分も少し関われる機会でもあります。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)

 

最近は海外からの来訪も増えているようで、私が訪れた日も、タイ語や英語など、さまざまな言語で書かれた瓦があちこちに並んでいました。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)
瓦と並んで、もうひとつの屋根材、檜皮葺に使われる檜皮(ヒノキの樹皮)の奉納もあります

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)
左から、護摩堂(ごまどう)と閼伽井堂(あかいどう)。本堂の通路から、瓦屋根が間近に見られる

 

実は、関東在住の私がここ滋賀県近江八幡市と長命寺を訪れるのは、今回で2度目です。前回訪れたのは、昨年の夏でした。

母方の祖先が近江八幡にルーツを持つと聞き、初めて足を運んだのがきっかけです。
この地域の歴史や成り立ちに触れる中で、それまで自分の中にぼんやり点在していた感覚が、徐々につながっていくのを感じて、もっとこの土地について知りたいと思ったのです。

 

帰り際に、もう一度、長命寺の屋根を見上げます。

どこかに自分の瓦が使われるかもしれない。
そう思うと、この場所との距離が、少しだけ近づいたように感じられました。

 

日本遺産・長命寺(滋賀県近江八幡市)

 

筆で書く、という時間は、現代の日常では珍しくなってしまいましたが、こうして瓦に向かって改めて筆をとると、背筋が伸びる思いがするものです。そして、長命寺にこれから残っていくものだと思うと、改めて言葉を選びたくなります。

 

ここ、長命寺は、目先のことで忙しく過ごす日々から一呼吸おき、もっと大きな時間の流れや、本当に大切にしたいものを思い出させてくれる場所でもあるように感じます。

 

木々が生い茂る山道を抜け、階段を登り、山の中腹から歴史が紡いできた景色を眺める。
それだけでも、この場所のことは、十分に記憶に残るでしょう。

そのうえで、もし少し余裕があれば、一枚の瓦に言葉を残してみるのもいいかもしれません。

 

瓦の奉納は、この場所の保全につながり、書き残した言葉は、やがて屋根の一部として、長命寺がこれから紡ぐ時間の中に重なっていきます。

「瓦を納める」という小さな関わりですが、その一枚が、この場所への愛着をゆっくりと育んでくれる気がするのです。

 

 

長命寺の詳細情報

住所:滋賀県近江八幡市長命寺町157

営業時間:8:00~17:00

TEL:0748-33-0031 / FAX:0748-33-8031

入場料金:無料

車:名神竜王ICより約30分

駐車場:普通車 50 台

※ 8合目の駐車場からも階段があります(約5〜6分)。

公共交通機関:近江バスで近江八幡駅より約25分、「長命寺」下車。

※ ふもとから階段(808段)を登っての参拝は、約20〜25分かかります。
※ 参道(林道)を徒歩で登ることもでき、こちらは比較的ゆるやかな道です。

本記事の内容は2026年4月時点の情報です。

https://mediall.jp/history/141937

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この記事を書いた人

夏子

伝統と現代、文化と商業、都市と地域、日本と海外など、異なる視点を行き来しながら地域や人が持つストーリーを読み解くのが好き。これまでに海外3カ国で暮らし、10年以上かけて国内39都道府県を訪ねました。「旅 × 地方創生」をテーマに、地域の文化や暮らしを読み解き、広く伝わる価値として綴ります。

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