
洗足池駅 アクセス
東急池上線 洗足池駅
先月早々、救急車で家族が洗足池(せんぞくいけ)の病院に運ばれる騒ぎが起き、連日洗足池の街をウロウロするハメに陥った。
洗足池駅は改札を出ると、目の前に中原街道を挟んで洗足池が見える。商店街は、改札を出て右側にくるりまわりこむと、ゆるやかな下り坂。

東急池上線のガード下をくぐった先、再びゆるめの上り坂、その後下り坂……、洗足池商店街が延びている。起伏の多い土地なのだ。
昭和12(1937)年創業「魚忠」
まず目についたのは、青いひさしが眩しい昭和12(1937)年創業の魚屋さん「魚忠(うおちゅう)」である。

クルクル巻き毛のトイプードル、「ワカ子ちゃん」がまん丸クッションにちょこんと座ってる、傍らにはにこやかな女性がひとり、思わず声をかけずにはいられない光景だ。
通りかかったときは、ワカ子ちゃんはご近所の犬と対峙して歩道でワンワン〜とご挨拶中だった。飼い主同士もしばしおしゃべり……。
それがわたしの洗足池の商店街デビューだった。
次の日も、次の日も、その次の日も……「魚忠(うおちゅう)」の前を通った。二代目の亀山喜久男(かめやまきくお)さんと妻の光子さんが営む魚屋さんである。

ある日、ここのマグロのぶつ切りパックを買って家でマグロ丼を食べた。トロほど脂は乗っていないはずなのにマグロ自体のコクと味が口中に広がった。
店主の亀山喜久男さんに取材を申し込むとあまり乗り気ではないご様子だった。
それでもと食い下がるわたしに、わかった、とばかりに名刺をポンっと手渡してくださる、いかにも江戸っ子らしい潔さだ。
取材当日、ショーケースを覗き込むと、かじきまぐろ、しゃけ、たら、海老、絞甲いか、牡蛎、まぐろ、中おち、中トロ、赤貝、あじ酢、などが並び、ひらめの刺身パックに中トロ2切れがついていた。


いかにも、東京っぽい、と思ったとたん、広島出身で父親は長崎県松浦市出身なことを口走っていた。
すぐさま、アジの産地だね、と亀山喜久男さん、そこからフグちりや鯛の刺身が好物だった父親の話に及ぶと、
フグが一番取れるところ、どこか知ってる?
下関!って答えると、
北海道だよ、って……!
それもこれも温暖化、海水温の上昇による影響だ、そう。下関は今も昔も取扱量は日本一、漁獲量は激減している。
参考:国立環境研究所HP「日本一のフグ取扱量を誇る下関で、海水温上昇による漁獲量の変化に適応する」
魚忠
東京都大田区上池台2−32−2
営業時間:9:00-19:00
定休日:日曜・祭日

昭和22(1947)年創業「梅屋」
ところで、病院通い第1日目、病院とは反対方向の中原街道沿いに歩きだし、おかげで徒歩10分あまりで到着するはずが30分以上かかった。延々と急な坂道を上ったり下りたり、大汗をかきかき病院に到着という二重の惨事に見舞われた。

渡された入院の冊子には、駅から水路沿いに徒歩12分、とある。水路ってどこだろう?と首をひねったあげくに、無知なわたしは洗足池=水路と解釈し、ウルトラ方向音痴と相まって次の日も愚行を繰り返した。
2日目、洗足池駅の改札を出て右、商店街に至る東急池上線のガード下をくぐってはみたけれど水路がみつからない。
そのまま商店街を通り、どこぞの角を右へ、下り坂……、スマホの位置情報に翻弄されながら歩いていると、一軒の和菓子屋さんがあった。
入院用品を詰め込んだ小型スーツケースを引きずりながらショーケースを覗き込み、みたらしだんごにあんだんご、茶まんじゅうなど眺めたらカラダが甘味を求めていることに気がついた。


すあま、栗あんまき、茶まんじゅうなど買って、その日も迷いに迷いながら30分以上かけて病院についた。
すあまを口にしたとき、お餅でもなく、ういろうでもない食感と風合いに思わず目を閉じた。

2つめ、栗あんまき、どら焼きの皮とツブツブした栗あんの香ばしい甘味が口の中に広がった。

ひとつひとつの和菓子が、素材そのものをいかしきった味と風味だった。
梅屋さんは昭和22(1947)年創業、現在のご主人は2代目である。生まれ育った品川区大井町から洗足池に移り住むこと67年。
かつては、駅前の洗足池商店街に、甘味併設の「梅屋」があった。1980年代から90年代にかけてのことだ。80年代の日本は空前の好景気に沸いた。しかし89年から90年代初頭にバブルが弾け、急速に経済は冷え込んだ、というのが一般的な認識だ。
梅屋さんも、時代の浮き沈みを肌で実感したおひとり、10年で駅前の商店街にあったお店をたたんでしまわれた。評判の高いお店だったようでその頃のことを覚えている人も多い。
店頭でお話していると、駅から離れた立地なのに、次々に親子連れに熟年世代、みたらしだんごを1本買いする若者……、あらゆる世代のひとが梅屋に立ち寄る。
何か、和菓子を作るときの秘訣、商売のコツみたいなものはありますか、とわたしがステレオタイプな質問を繰り返すと、梅屋さんはしばし沈黙の後、あえて言うなら、日常の会話を大事にしてることかな、世間話とか……ぽつりとおっしゃった。
それはそうだ、とひらめいた。梅屋に来るお客さんは、二言三言、時には話し込んだりしながら、買っていかれることが多い、そういった普段のやりとりを大事になさってる。時には悩み事の相談も受けるそうだ。そういうのって洗足池のお店たちを巡っているとよ~くわかる。
「工房一会」の小野恒夫(おのつねお)さん
梅屋さんに取材交渉している日、なにやらオレンジ色の彫刻を抱えたお方がふらり立ち寄られた。これ、人参だよ、と教えて下さる、人参って彫るものだったのだ、と驚いていると、先日、氷の彫刻師として初めて「現代の名工」に選ばれた「工房一会」の小野恒夫(おのつねお)さんだった。
参考:時事通信 氷彫刻師で初「業界の励みに」 料理人から転身、輝きにこだわり―現代の名工・小野さん


この人参の彫刻、何に使われるんですか?
何って……ニコニコしながらはぐらかしてどこぞへ消えてしまわれた。
小野 恒夫Ono Tsuneo
氷彫刻・フルーツ&ソープカービング
東京都大田区上池台
Mail: koubou.ichie@gmail.com
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昭和8年「森井青果」→昭和23年「丸文青果」→平成27年 新生「八百屋 丸文」の取り組み
しばらくすると、今度は、「八百屋 丸文」の女将さんがご来店、「五目寿し」を買っていかれた。梅屋さんは、甘味だけじゃなく、「のり巻き(かんぴょう)」に「いなりずし」などご飯ものも扱っている。甘味とお酢の効いたご飯が各種具材と一体化、見た目は普通だけど普通じゃないお寿司だ。
数10分後に立ち寄ると、くだんの人参の彫りモノが八百屋の店先でオレンジ色に輝いていた。


「八百屋 丸文」さんは昭和8(1933)年創業、明治生まれの森井五郎さんが「森井青果」の店名ではじめた。今の「八百屋 丸文」の斜め向かいだ。
2代目、森井文治郎さん、大正15(1926)年生まれ、は、昭和23(1948)年「森井青果」を引き継ぎ、現在の場所に移り屋号は「丸文青果」になった。「文」は言うまでもなく文治郎さんの「文」だ。現在は3代目の森井茂さんと妻の森井啓子さんが経営している。
「八百屋 丸文」がある辺りは小池商栄会といい、住所で言うと上池台2丁目、3丁目だ。駅前の商店街を突き進み、2つ目の十字路を右に行った通り沿いに「八百屋 丸文」はある。

洗足池の駅からここまで徒歩で5分~7分、そのまま真っすぐ行くと、*「洗足流れ」沿いの桜並木、「桜のプロムナード」に出られる。
*「洗足流れ」とは、洗足池から元々は主に田畑の灌漑目的で引いてきた水路のこと。

森井茂さんと森井啓子さんは、三軒茶屋の店を27年間営んでいたが、3代目を引き継ぐとき、三軒茶屋店を閉めてこちらに移られた。
野菜の目利きとして、日頃から地域の課題を身をもって感じている経験を生かして、2015年、新生「八百屋 丸文」は誕生した。

単に野菜を買う場ではなく、近隣の人々、親子連れ、単独世帯、様々な人々が交流できる場所を作りたい、というのがご夫婦の願いだ。
木目を生かした什器と柔らかなスポット照明で構成された店内は、商品がひとめで見渡せるよう工夫されている。

「おおたの逸品」や「大田のお土産100選」、洗足池、洗足流れの桜などで採取した雪谷産の「ゆき蜜」、大田区の老舗佃煮屋がつくる「羽田大谷の若炊あさり」などや、地方の特産品、酒、ビール、各種調味料、缶詰、カレー、菓子類、鍋の素、お米に至るまで、野菜のみならず、肉、魚以外なら大抵揃う。

地域のイベントもたびたび催される。例えば、絵本の読み聞かせ、八百屋バー、フリーマーケット、子供のライブイベントと言った具合、口にしただけでワクワクするようなイベントを女将の森井啓子さんは常に思案中。

2代目の森井文治郎さんは2022年95歳で亡くなられたが、時代の生き証人として、終戦直後の洗足池周辺の貴重な証言を、東急テレビ「テクテクTV」などで残された。
東急テレビ てくてくTV 商店に焦点! 洗足池 八百屋丸文 青果店
昭和16(1941)年は太平洋戦争のはじまりで、食料や生活必需品は配給制、八百屋でも野菜が自由に売れなかった時代を経て、戦後焼け野原になった洗足池でバラックからはじめたことなど、語っていらっしゃる。
かつて「八百屋 丸文」の通りをはさんだ向かいには、「小松湯(2015年閉湯)」があり、銭湯を中心に人々が集まり、ついでに夕食の買い物、日用品を買って帰るという自然な流れが存在する時代があった。
このあたりは、魚屋、肉屋、中華屋、ラーメン屋、自転車屋、雑貨屋、寿司屋、果物屋、散髪屋に美容院……、なんでもあった、と「梅屋」のご主人と「八百屋 丸文」の森井啓子さんは言い、「八百屋 丸文」を一つの拠点として、未来に向けて新たな取り組みを色々試されている。
「八百屋 丸文」
https://www.instagram.com/yaoyamarubun/
営業時間 午前10時〜午後7時半
大田区上池台2-38-7
定休日 日曜日・祝日
TEL 03-3726-5198
「古今玉てばこ洗足池商店街」
その他、ファンになったお店リスト
寿々川(すずかわ)/うなぎ・てんぷら
東京都大田区上池台2-39-11 洗足池駅徒歩5分
ランチメニューの価格に惹かれ来店、薄味なのにコクがある!フワフワの鰻が香ばしく、端正な室礼(しつらい)のお座敷!今度は天婦羅も食べたい!
萬福飯店
東京都大田区上池台2-31-7 洗足池駅徒歩2分
街歩きして出会った住民の推薦!
五目まんぷくめんをチョイス、真っ当なおいしさ!
甘い香りのオリジナルブレンドティー+帰り際の大粒チョコ!
*個人の体験談です。
龍(RON)(中華料理)洗足池駅徒歩5分
東京都大田区上池台2-37-5
肉卵定食、キクラゲ入り!ボリュームたっぷりあっつあっつの味に満足。
後編に続く!




