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スポット  |    2026.05.18

【山梨県笛吹市】知る人ぞ知る「秘密の花園」夫婦で守る春の風景

山梨県笛吹市に、地図にもほとんど載らない「秘密の花園」があります。

大きな看板も、駐車場も、ホームページもない。
それでも毎年、花の季節になると人が訪れる場所です。

その名は「駒沢農園(こまざわのうえん)」

日本一の桃の里として知られる山梨県笛吹市にある、知る人ぞ知る花桃の名所です。

ここでは、人混みとは無縁の静かな時間が流れています。

口コミだけで広がった、「本物の穴場」

山梨県笛吹市一宮町千米寺、縄文の歴史を伝える釈迦堂遺跡博物館のすぐそばに、春になると花桃の花が咲き誇るこぢんまりとした農園があります。

入場は無料。開園期間は短く、毎年3月下旬から4月中旬ごろまで。

公式ウェブサイトも観光ガイドへの掲載もなく、存在を知る人だけが訪れる場所です。

それでも春になると、桃の開花にあわせて県内外からリピーターが訪れます。

ここは、口コミだけで静かに広がり、30年以上にわたって愛されてきた「本物の穴場」です。

「売店の商品が売り切れたら申し訳ないから、あまり宣伝しないでほしいんです」
そう笑いながら話すのは、この農園を営む駒沢正樹さん(73歳)と昌子さん(70歳)。

普段はぶどう農家として働くおふたりが、農閑期の春に始めたのが、この花桃園でした。

大勢の観光客を呼び込むのではなく、花をゆっくり楽しんでもらいたい——その思いは人から人へと伝わり、気づけばこの場所を愛する人たちが、毎年春になると集まってきます。

まるで貸し切りの花園。山梨の春をゆったり味わう

訪れたのは、桃の花がちょうど満開を迎えた、3月末の平日のことでした。

小さな農園の敷地内には、濃いピンク、淡いピンク、白——と、色とりどりの花桃が競い合うように咲き誇り、その下には小さな切り株のベンチがいくつか並んでいます。

訪れていたのは10人にも満たない人数で、まるで貸し切りのような静けさ。
ベンチに座り、花の香りが混ざった春の空気をゆったりと味わっていると、風に揺れる花びらが、ときおり足元にそっと落ちてきます。

「きれいだね」「来年も見られるかな」人々のそんな何気ない会話に、この場所の時間の流れがそのまま表れているようでした。

7分歩いた先にある、もうひとつの花景色

駒沢農園には、もうひとつの見どころがあります。
売店のある花桃園から、看板に沿って細い畑道を7分ほど歩いた先にある第2農園です。

こちらも入場は無料。
花桃だけでなく、菜の花や収穫用の桃の花も咲き揃い、色とりどりの春が広がります。

敷地内には、駒沢さんご夫婦の娘さんが制作した土偶をモチーフにした愛らしいオブジェが点在し、訪れる人をほっこりとした気持ちにさせてくれます。

観光地らしい演出は何もないのに、なぜか「もう少しここにいたい」と思ってしまう——そんな不思議な引力が、この場所にはあります。

出会えたらラッキー、手作りの味

農園の一角には小さな売店があります。

よく冷えた桃のジュースやお茶、手作りの品や桃の瓶詰めが並びます。手作りの品は数量が限られるため、開園から早い時間帯には売り切れてしまうこともあるそうです。

この日は手作りの干し柿、山菜やきのこの瓶詰めなどが並んでいました。

花桃の枝(1本300円)も販売しているとのことですが、筆者が訪問した日はすでに販売を終了していました。花が咲ききってしまったため、とのこと。

「つぼみの枝が無くなったら終わりです。花が咲ききってしまった枝は売らない。長く楽しんでもらいたいから」——正樹さんの言葉に、訪れる人への誠実な気持ちが伝わってきます。

早い時期に訪れれば、花を見るだけではなく、持ち帰る楽しみも、きっと増えるはずです。

花桃が結んだ、ご縁と音楽

この日は、フルート奏者の生明麻衣子(あざみまいこ)さんによるミニコンサートが開かれていました。

生明さんは、東京音楽大学を卒業し、現在は山梨と神奈川の二拠点で活動するフルート奏者です。

2年前にこの農園を訪れた際、即興演奏を披露したことがきっかけでご夫婦との交流が生まれ、今回のコンサートにつながったそうです。

抜けるような青空のもと、花桃の木々の間で響くフルートの音色。

帰宅したあとも目をつぶると、あのときの光景と音色がふとよみがえってくる——そんな時間でした。

「30年、楽しいことしかなかった

駒沢農園の魅力は、景色だけではありません。
この場所のあたたかさは、運営するご夫婦のお人柄そのものから生まれています。

「プーチンと同じ年なんですよ」少し照れたように笑って教えてくださったのは、正樹さんです。

一見寡黙な印象の正樹さんですが、ひとたび話し始めると、飾らない言葉のなかにユーモアとあたたかさがにじみ出てきます。

「もうからないけどね。お客さんに『きれいだな』って言ってもらえるのが何よりうれしくて。趣味みたいなもんですよ」

昌子さんは、穏やかな笑顔でこうおっしゃいました。
「30年、楽しいことしかなかったですね。人と話すのが好きだから」

手作りの縄文土器のお面をかぶって、お客さんと楽しそうに笑う昌子さん。気さくであたたかな人柄も、多くの人を惹きつけています。

苦労もあるはずなのに、その話をすることはありません。
「お客さんに楽しんでもらいたいから」と笑うおふたりの姿に、人を大切に思う気持ちがにじんでいました。

そんなおふたりを取り巻く状況は、決して楽ではありません。採算性の難しさや担い手不足などを背景に、山梨県内でも花桃園は年々少なくなってきているそうです。

そろそろやめようかと思うこともある、と苦笑いしながらも、「やめないで」「続けてほしい」という常連客の声に背中を押され、今もおふたりでこの場所を守り続けています。

これからも、この場所が変わらず続いていくことを、そっと願うばかりです。

駒沢農園を訪れる前に知っておきたいこと

開園時期は桃の開花状況によって前後します

開園の目安は3月下旬から4月中旬ごろですが、その年の桃の開花状況によって変わります。
NPO法人ふえふき旬感ネットが運営する「ふえふき旬感ネット」では、開花状況をこまめに更新しています。咲ききってしまうと見頃はわずか1週間ほど。「そろそろかな」と思ったら、まず確認してみてください。

中央道釈迦堂PA(下り)からのアクセスがおすすめ

駒沢農園には専用の駐車場はありませんが、中央道釈迦堂PA(下り)から釈迦堂遺跡博物館へ通じる階段を使い、徒歩5分ほどでアクセスできます。

縄文土器に興味のある方は、隣接する釈迦堂遺跡博物館の駐車場に車を停め、博物館を見学したあとに、駒沢農園へ立ち寄るのもおすすめです。

花の時期は博物館の駐車場が混雑することもあるため、午前中の早い時間帯に訪れると、よりゆったりと楽しめます。

まとめ

毎日仕事や家事に追われていると、季節を感じること自体が、少しずつ遠くなっていきます。
気づいたら桜が散っていた、今年も花見できなかった——そんな春を過ごしてしまった経験はありませんか?

筆者は、毎年駒沢農園を訪れています。この農園の桃の花の美しさは、日常の慌ただしさをふっと忘れさせてくれます。

心から「きれいだな」と思える場所が、この春も自分を待っていてくれる。
それだけで、また明日から頑張れる気がするのです。

来年の春は、ぜひ駒沢農園で、この景色を体験してみてください。
きっと、あなたの中にも残る風景になるはずです。

駒沢農園 基本情報

駒沢農園(売店)

・所在地:山梨県笛吹市一宮町千米寺(釈迦堂遺跡博物館の隣)
・アクセス:中央道釈迦堂PA(下り)から徒歩約5分
・開園期間:3月下旬〜4月中旬(花の開花状況により変動)
・入場料:無料
・専用駐車場:なし

駒沢農園(第2農園)

・所在地:山梨県笛吹市一宮町千米寺
・アクセス:駒沢農園(売店)から徒歩約7分
・開園期間:駒沢農園(売店)と同じ
・入場料:無料
・専用駐車場:なし

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この記事を書いた人

宮沢 まみ

山梨県甲府市在住の取材ライター。 地元・山梨を拠点に、観光地や地域に根ざすお店を訪ね、土地の物語や人の想いを丁寧に取材・執筆しています。海外生活の経験も活かし、日本各地の観光と暮らしの魅力を伝えることを目指しています。

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