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もの・こと  |    2026.05.07

生きがいが生まれる場所|山梨県甲州市の日常に溶け込む「かつぬま朝市」

日本有数のワインの生産地として知られる山梨県甲州市では、第一日曜日になると、多くの人々が同じ方向に歩いていく姿を目にします。人々の向かう先にあるのが、「かつぬま朝市」。髙安一(たかやすはじめ)さんが会長を務めるかつぬま朝市会が2003年から始めた、地域に根付いた朝市です。

地元の人や観光客が集まるかつぬま朝市は、単なる買い物の場を超え、出店者が自己実現できる場でもあります。実際に、ここから多くの起業家を生み出してきました。かつぬま朝市が、人々を魅了する理由は一体、何なのでしょうか。そこに至るには「朝市に生きがいを見出す出店者の姿がヒントになった」と、髙安さんは語ります。

今回は、活気あふれるかつぬま朝市に足を運び、出店者が朝市で楽しく過ごす姿や、人々から愛される理由を取材しました。

第一日曜日に広がるにぎわい「かつぬま朝市」の光景

開始時間の9時前から、会場にはお客さんの姿が見られる。

JR塩山駅から徒歩7分。かつぬま朝市は、2月~12月の第一日曜日に、青果店やワインバーなどが立ち並ぶ駅前通り沿いの「甲州中央防災広場 塩むすび(えんむすび)」で行われています。会場に立てられる、「かつぬま朝市」と書かれた白い幟が目印です。

夏から秋にかけては、山梨県の特産である桃やぶどうはもちろん、これらを加工したスムージーやジェラートなどの旬の味覚を楽しめる朝市として知られています。

季節の食材を使ったキッシュとタルトは、食べ歩きにもぴったり。

訪れたこの日は、寒さ厳しい2月。朝9時の開始に合わせて、カレーやキューバサンドなどのキッチンカーから食欲をそそる香りが漂い始め、温かい食べ物を求めるお客さんの列が出来ていました。そのほかにも、朝食にぴったりな米粉のパンやキッシュ、豆腐、新鮮な野菜を販売するお店が並んでいます。

小麦・卵・乳製品不使用のグルテンフリーのパンやお菓子が並ぶ。

会場を進むと、県内で栽培された果樹の古木を加工したカトラリーや、猟師さんが手作りする革小物などを販売するお店もありました。埼玉県の蜂蜜や静岡県のちりめんじゃこなど、県内外のこだわりの逸品も見られます。そんな多彩な商品を前に、お客さんの表情も自然とほころびます。あるお店では、一度家に商品を置きに帰り、再び買い物にやって来たお客さんに嬉しそうに接客する出店者の姿も見られ、微笑ましい景色が広がっていました。

山梨県内の桃・ぶどうなど古木をスプーンや箸、アクセサリーにアップサイクル。

売るものはモノだけではありません。畳用の包丁を研ぐ機械を使用して、家庭用の包丁を研ぐサービスを行う畳店の姿も見られます。作業風景を眺めていると、本業が畳店だと知ったお客さんが、包丁研ぎと一緒に畳の修理を依頼し始めました。

かつぬま朝市は、一見、朝市に向かないビジネスを展開するお店でも、店主のアイデア次第で本業をアピールできる場所だと感じました。

山梨県で駆除された動物の皮をアップサイクルした革小物は、すべて猟師さんの手作り。

「勝沼の名前を残したい」朝市誕生の背景

かつぬま朝市会の髙安一会長。20年間の歩みを振り返っていただいた。

会場の至るところで、出店者やお客さんの笑顔が見られるかつぬま朝市。旧ホームページには、「住民が勝手に始めちゃった朝市!」と書かれており、どのような経緯で、かつぬま朝市を始めたのか聞いてみたくなります。

2005年11月に行われた市町村合併で、勝沼町は大和村と塩山市と合併し、今の甲州市となりました。住民の間では勝沼の名前が消え、自分たちのアイデンティティがなくなるかもしれないという危機感が高まり、髙安さんたちは合併前の2003年、地域のために動き始めました。

「勝沼のために何ができるのかと考えていたとき、地域に関心の高い仲間の一人が『ファーマーズマーケットをやればいいんだよ』と言ったんです」

この一言をきっかけに、ファーマーズマーケットを開催することが決定。その後、場所探しやルール作りなど、さまざまな準備を進めていきました。その中で最も重要なのがコンセプトです。髙安さんは「地域のために、どんな場所を作るか」を考え、移住者と農家さんとの間に溝があることに着目しました。

「当時、私は他の地域から引っ越してきた人々が多く住む、四季の里という新興住宅に住んでいて、近所の農家さんから他の住民にも野菜や果物を渡してほしいと頼まれることが多かったんです。『あそこの畑の人からもらったんだよ』と伝えても、本人同士が直接会っていないこともあり、お互いの顔がわからず、せっかく町で会ってもあいさつができない状態でした。それなら、地元勝沼町の農家さんと住宅に住む住民が直接、顔を合わせて野菜を渡せる交流の場所を作ろうと思ったんです」

こうして、2003年4月、四季の里住宅の中にある公園にテント1台を置き、かつぬま朝市が誕生しました。

「楽しみながら売れるものを」朝市のあり方を決定した転換点

キッチンカーを誘導する髙安さん。朝市の運営を先頭に立って行うスタイルは20年間変わらない。

しかし、活動は思うように進みませんでした。桃やぶどうの栽培が盛んな土地柄、ほとんどの農家では、野菜は農繁期以外の時期に果樹畑の端で育てられています。当時、こうした野菜は販売するものではなく、近所へのお裾分けが一般的でした。5月以降は果樹栽培に向けて整備が始まるため、それまでに野菜を収穫しなくてはならず、朝市で販売できるだけの量が揃わないことが判明したのです。

この状況を打開しようと、近くの道の駅で大量の野菜を確保しましたが、売価で仕入れるしかありませんでした。そのため、道の駅より少し高い値段で販売することになり、半分以上の売れ残りを出してしまいます。翌月は、畑に残されていた大根やトマトなどを採りに行きますが、満足のいく品数を揃えられませんでした。品数が揃わない月が2か月程度続き、来場者の数も徐々に減っていったそうです。

来場者が出店者を下回るほどになり、責任を感じた髙安さんは、「このまま続けてもいいのか……」と悩んでいましたが、第1回から参加する農家の女性の言葉に活路を見出します。その女性は「お客さんと話しながら、楽しく野菜の販売ができるんだから気にしないで」と声をかけてくれたと言います。

髙安さんは地元の野菜にこだわらなくても出店者が楽しみながら売れるものであれば、売るものはなんでもよいと考えるようになりました。そして、そのような考えを後押しするような光景を会場で目にするようになりました。

「このお金は私だけのもの! 」と売上金を手に握りしめながら、初めて手作りジャムが売れたことを喜ぶ八百屋のおかみさん。野菜と一緒に手書きのレシピを渡し、いきいきと調理方法のアドバイスをする農家の女性。そんな姿が会場のあちこちで見られたのです。

「出店者さんたちにとって、朝市はお客さんとのコミュニケーションを楽しみ、自分だけに使えるお金を得られる場所になっていたんです。この時初めて、朝市を生きがいのように感じてくれていると実感しました」

髙安さんは、朝市を「出店者がやりたいことをやれる自己実現の場」にすることを決め、野菜以外のものも売られるようになりました。

地域の枠を越え、出店者の自己実現を支える場所へ

埼玉県行田市で採取された天然の生蜂蜜。月ごとに色・香り・味わいが異なる。

農家の女性の一言がきっかけで、売りものに対する考えが変わった髙安さんは、次に出店者そのものについても見直すことにしました。それまでは地元勝沼の出店者に限っていましたが、地域外からも受け入れることにしたのです。 

「勝沼は果樹の一大産地で、こうした特産品はすでに販路が決まっています。それならば、果物を売りにするより、地域外のものでも人でも、かつぬま朝市の方針に共感してくれればなんでもよいという結論にたどり着きました」 

そして、地域そのものについても、髙安さんの考えは深まっていきます。 

「地域には大きく分けて3通りの人がいます。もともとその土地で生まれ育った人。進学や就職で離れたあと、定年を境に故郷に戻ってくる人。別の地域から移住し、この場所に根を下ろして生きることを決めた人。そんな人たちがともに生きがいを見出せる居場所が地域なんだと気づきました。だから、楽しい方が絶対に良い。みんなのやりたいことがやれるところが地域の魅力だと感じ、自分たちらしく、自由に楽しくやろうと思うようになりました」

髙安さんのこうした考えは、朝市の活動方針にも反映されています。一般的には来場者を増やすことが優先されますが、かつぬま朝市では出店者が楽しく出店できる環境を整えることを大切にしています。ボランティアで運営を手伝う「かつぬまサポーターズ」が、搬入搬出やテント設営などをサポートすることで、出店者は接客に集中できるのです。こうして、出店者にとって楽しい場所は、お客さんにとっても楽しい場所となり、来場者が徐々に増えていきました。

かつぬまサポーターズは、テント設営のほか、出店料の徴収、運搬車・来場者の誘導など多岐にわたって運営を手伝っている。

「かつぬま朝市がスタート地点」独立への後押し

和柄のがまぐち財布を中心とした雑貨類が並ぶ。レトロな柄が可愛らしい。

出店数が増加したかつぬま朝市は、2005年に会場をワイナリーの敷地内に移転し、観光スポットとしても注目されるようになりました。2015年には来場者が4,000人を突破し、その後も多くの人々が足を運び続けています。2019年に勝沼町から現在の場所に移ったあと、新型コロナウイルスによる活動休止を経て、2021年4月に本格的に活動を再開しました。

少しずつ出店者や来場者が戻り、現在のかつぬま朝市に出店する店舗数は130店。朝市を経てパン屋やヴィーガンカフェなど自店を開業する出店者も多く存在します。

「開業した店主のみなさんは、朝市でお店のファンを増やしていきました。また、かつぬま朝市の仲間たちの応援も開業への後押しになっているようです。そうした方々は、今でも『かつぬま朝市のおかげで独立できた』と言ってくれて、役に立てて良かったと思っています」

その背景には、髙安さんの遊び心が影響しています。以前、木工品ストリートなどと名付けて、同じ種類の商品を販売するお店を隣同士に配置したことがありました。最初は困惑した出店者も、徐々に商品のクオリティーを上げていったといいます。

「こういう遊び心が許されるのも、地域の強みだと思うんです。出店者さん同士がつながり、コラボ商品や新しい特産品が生まれるのも素敵ですよね」と、髙安さんはいたずら小僧のような笑顔で語ります。

すべての人の「やりたい」を叶え続けるために

かつぬま朝市をさらに多くの人に知ってもらうため、YouTubeチャンネルを開設。毎月、会場で出店者さんにインタビューを行い、お店の魅力を届けている。

立ち上げ当時、朝市に出店することを「みっともない」と考える方も少なくありませんでした。果樹栽培で十分生計が成り立っているのに、わざわざ野菜を売る必要はないと考えられていたからです。しかし、現在の会場に移転してから数年が経った時、ある農家さんから「かつぬま朝市は町の自慢だったんだ。また勝沼に戻ってきてほしい」と声をかけられたそうです。

「反対していた人たちの心を動かすほどに、この朝市が大きな存在になったんだと実感しました。勝沼の人たちが、自分たちの誇りだと思ってくれていると知って嬉しかったです」

今では甲州市の日常として根付くかつぬま朝市の今後について、髙安さんに伺いました。

「かつぬまサポーターズとして関わってくれる人や、ビジネスを広げるために参加する出店者さんを見ていると、かつぬま朝市は人々が自己実現できたり、生きがいを見つけられたりする場所になっていると感じます。だからこそ、規模を大きくするよりも、この場所を長く続けることに注力したいです」

かつぬま朝市の活動は、地域づくりそのもの。生活に必要なものが手に入り、人々の交流や新しい商店、特産品が生まれるというプロセスを辿っているからこそ、甲州市の人々に必要とされ、親しまれているのです。そして、人々が輝く場所こそが地域なのだと、私たちに気づかせてくれます。

髙安さんはすべての人々の「やりたい」を叶える場所を守るため、仲間とともにかつぬま朝市や地域を、これからも支えていきます。

【かつぬま朝市】

会場:山梨県甲州市塩山上於曽1072番地 甲州中央防災広場 塩むすび(えんむすび)

開催日:毎月第一日曜日(2月~12月)

HP:https://jimmycorp.net/katsunumaasaichi-top/

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この記事を書いた人

やなぎもと 理花

生まれも育ちも山梨県の取材ライターです。フェアトレード・ソーシャルビジネス・SDGsに関心があります。山梨で「面白いこと」に取り組んでいる人々を取材し、「この人に会いに行きたい」と思ってもらえるような記事を作成し、地域の魅力を発信していきます!趣味は旅・エンタメ・聖地巡礼(映画・ドラマ・小説など)・トレッキング・ロードバイク。

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