2025年5月、世界3大国際映画祭・カンヌ国際映画祭(仏)が華やかに開催された。セレブリティも集うその公式パーティー「CANNES GALA(カンヌ・ガラ)」で、沖縄県うるま市の「神村酒造」が手掛ける「暖流 BLESS」と「暖流 CRAFT」の2種の泡盛が提供され、大好評となった。

2025年のカンヌ国際映画祭では、ロバート・デ・ニーロやアンジェリーナ・ジョリー、日本からは大ヒット映画『国宝』に出演する吉沢亮や横浜流星といった数々の人気俳優がレッドカーペットに上がり、世界の注目を集めた。
この歴史ある文化の祭典を彩る公式セレモニー&パーティーが「カンヌ・ガラ」だ。
カンヌ・ガラは、「誠実に高貴に(Honest and Noble)」をテーマに、「表現と貢献」「技術と精神」「個と世界」が交差する最高位の社交界。格調高いパーティーゆえに厳しい審査を潜り抜けた高品位の料理やアルコールだけがふるまわれる。そのような栄えある場に、神村酒造の「暖流 BLESS」と「暖流 CRAFT」が提供されたのは、まさに快挙だ。

カンヌ・ガラから約半年を経た今、神村酒造を取り巻く環境はどう変化しているのだろう。泡盛づくりに情熱を注ぐ社長・中里迅志(はやし)氏に泡盛「暖流 BLESS」と「暖流 CRAFT」の魅力をはじめ、カンヌ・ガラでの思い出や手ごたえ、そして、泡盛づくりを通して実現したい未来までを、じっくりと伺った。
カンヌ・ガラが選んだ泡盛「暖流」とは?こだわりを深掘り
中里迅志氏(以下、中里さん): カンヌ・ガラでは、アルコール度数40度の「暖流 CRAFT」と、採用を記念して特別に造った度数46度の「暖流 BLESS」を提供しました。
まず、「暖流 CRAFT」は、アメリカンホワイトオークの樽で3年間熟成させた原酒と、ステンレスタンクで熟成させた透明な泡盛をブレンドした「古酒(クース)」です。一般的な泡盛や焼酎は、半年から1年ほどで出荷されるのに対し、長期間熟成された泡盛は香りが豊かで口当たりがまろやかになります。ですから、同じアルコール度数でも、軽やかな口当たりが特徴なのです。
なぜ、ブレンドするかというと、ひとつは泡盛に厳密な「色度規制」という決まりがあるためです。つまり、ウイスキーのようにどんどん色を濃くしてはいけないというルールがあるため必要なのです。本来、樽で3年間熟成させると美しい琥珀色になるのですが、それでは色が濃すぎてしまうためブレンドを施していきます。またもう一つの理由として、泡盛らしいおいしさを兼ね備えるためにもブレンドを施すことは大切です。

もともと、神村酒造の主流ブランド「暖流」は、沖縄県がまだアメリカ統治下だった1968年に、アメリカの人たちがもともと持っている「ウイスキーを飲む」という習慣や文化と、私たちの「泡盛を飲んでほしい」という思いをつなぐために造り始めました。
そのため、色や樽由来の香りといったウイスキーの要素と、米を原料とする泡盛本来の味わいを兼ね備えるものにしたいというコンセプトから、ブレンドする必要があると考えたのです。
一方、今回新たに手掛けた「暖流 BLESS」は、カンヌ・ガラのために造られた特別な泡盛です。40年間熟成させた古酒をはじめ、18年古酒や酵母違いの古酒など7種をブレンドしています。人生に訪れる特別なお祝いである社交の場を華やかに彩る…そんな願いを込めているのです。
なぜ泡盛「暖流」はカンヌで愛された?選定理由と世界が認めた品質
近年、日本で造られる酒類は日本酒をはじめ、ウイスキーやジン、ワインなど、様々な種類が世界的に人気を集めていると聞く。あまたある日本の酒類の中で、なぜ、泡盛がカンヌ・ガラにふさわしいとされたのだろう。
中里さん: もともとカンヌ・ガラの主催者側は、「日本で造られた酒類を世界のVIPに飲んでもらいたい」と考えていたようです。そのためのコンペティションが開かれたのですが、いくつかの理由から私たちの泡盛「暖流」が選ばれたと聞いています。
何よりも私がお伝えしたかったのは、泡盛が約600年の歴史を持つ日本最古の蒸留酒であることでした。また、蒸留酒としてのアルコール度数の高さもアピールにつながると考えました。というのも、欧米では、アルコール度数の高い蒸留酒をオン・ザ・ロックやストレートで楽しむ文化が根付いているからです。日本の焼酎は、一般的に25度から30度ほどが多く、それよりも度数の高い泡盛「暖流」は、欧米の方々の嗜好に合うと主催者側も考えたのではないでしょうか。
2つ目は、先ほども触れた「暖流」ブランドが備えるストーリー、コンセプトでしょうね。沖縄が本土に復帰する前に先代たちが生み出した、ウイスキーを愛する人たちにも受け入れられながら、私たちの誇りである泡盛という文化をつなぐ架け橋のような存在=「暖流」。こうした歴史的背景や伝統は、国際的な格調高い場所であるほど響くのだと思います。

3つ目は、客観的な品質の高さです。これまでに「暖流」は、サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティションで4度の金賞に輝き、さらにはダブルゴールドも受賞するなど、海外でも高い評価を得ています。国内でも、沖縄県のすべての泡盛メーカーが参加する泡盛鑑評会で最高賞を受賞しました。こうした実績が、大きなアピールポイントになったのです。
また、映画は1895年にフランスのリュミエール兄弟が上映したのが始まりと言われており、2025年はちょうど130年の記念に当たります。私たち神村酒造の創業は、明治15年(1882年)で143年の歴史があります。主催者側から「映画よりも古い歴史を持つ、日本の南の島の小さな酒蔵が提供してくれることは非常に素晴らしいストーリーを感じる」という言葉をいただきました。それも採用の決め手の1つになったようです。

カンヌ・ガラでの大成功!「暖流」がセレブリティを魅了した舞台裏
カンヌ・ガラには、世界各国の文化人、事業家、アーティストらが招かれたと言われている。セレモニーでは、栄えある称号の授与「Preuve du Do(道の証)」の栄勲顕彰式が執り行われ、そこには大規模なワールドツアーを成功させた日本人の若き歌い手・Adoなどの名前も刻まれたようだ。
完全クローズドで約150人規模で行われたパーティーにも、世界各地から俳優やモデルといった華やかな面々が参席したという。舌の肥えた世界のセレブリティは、「暖流」をどう味わったのか、気になるところだ。

中里さん: パーティーは非常に華やかなものでした。この日のために、私たちは沖縄から「ちぶぐわぁー(おちょこ)」と、泡盛を注ぐための酒器「カラカラ」を持参し、各テーブルにセッティングしました。海外のパーティーでは、ガラスのグラスが一般的ですから、陶器の丸みを帯びた愛らしい酒器は非常に目を引くと考えたのです。実際に、多くの方に「これは何だろう?」と興味を持っていただき、「この酒器が欲しい」という方もいらっしゃいましたね。
ただ、最も効果的だったのがデザートとのペアリングです。私たちのように、泡盛を飲みなれている者からすると、黒糖などの甘いものとの相性が良いことは既知ですが、まだまだ一般的には認知されていません。プレゼンテーションのときから、当日のフルコースの最後に出されるデザートがラズベリータルトだと伺っていたので、「そのデザートに合わせて、このお酒を楽しんでください」と提案したのですが、これが大当たりでした。

参加者の皆さんは、デザートと合わせて飲んだ瞬間に「美味しい!」と驚きの声を上げていました。洋酒で慣れ親しんでいるスイーツ類とのペアリングも、泡盛となると初めて。その初体験に、大いに感動していただけたようです。
まだパーティーの途中にもかかわらず、違うテーブルから何人も私のところへ、「このお酒はここで買えますか?」「買って帰るためにはどうすればいい?」と尋ねに来てくださったんです。結局、私たちが用意したボトルは予備も含め、全て参加者や関係者の方々が喜んで連れて帰ってくださいました。
これは、私たちにとって非常に自信につながりましたし、新しい展開を想像するのに十分な手ごたえとなりました。
カンヌ効果で世界へ!泡盛「暖流」が秘める無限の可能性
実際、カンヌ・ガラで「暖流」ブランドがふるまわれ、列席したセレブリティたちから高い評価を得たことが、国内外のメディアなどを通して知られるようになると、今までにない反響が多く寄せられるようになったと中里氏は振り返る。
中里さん: 本当に想像を上回る大きな反響をいただきましたし、それは今も続いているんです。まず、国内では、「暖流」ファンの方々は「自分のことのように誇らしい気持ちになった」と喜んでくださいました。また、飲食店に対してPRする際、これまで「○○賞を受賞した泡盛です」とご説明していましたが、「今年のカンヌで振る舞われた泡盛です」というと、すごく興味を持ってくださいます。カンヌ国際映画祭の威力の大きさに、改めて驚かされます。

もちろん、海外においても、カンヌ公式のセレモニーでふるまわれたという実績は、大きな追い風になっています。先日も、沖縄国税事務所から「カンヌで振る舞われた泡盛を引っ提げて、一緒に海外へ行きましょう」というお誘いをいただき、ポーランドのワルシャワで開催されたハードリカーの展示会に参加したばかりです。
その展示会でも、カンヌでの経験を思い出し、現地のスーパーでチョコブラウニーとラズベリージャムを入手して「暖流」と一緒に提供したところ、非常に喜んでもらいました。「ぜひワルシャワでも扱いたい」というお話を数多くいただきましたので、目下、半年後の輸出開始を目指して準備を進めているところです。
泡盛がつなぐ歴史と平和への願い
カンヌで得たのは、名声だけではない。
海外の方々に、泡盛を楽しんでもらうための新しい方法と体験を提供することで、造り手である中里さん自身も「泡盛の新しい可能性を引き出すことができた」と感じているそうだ。
たとえば、かつての試飲会ではただ「飲んでください」と口頭の説明のみで薦めることが多かった。だが、カンヌ・ガラ以降は甘味と合わせるなどして「こんな風に楽しめますよ」と具体例を示すことで、泡盛を知らない人にも受け入れてもらえる確信をも得たのである。
この力強い気づきを糧に、「暖流」ブランド、そして神村酒造はどこを目指すのか。思いやヴィジョンを最後に語っていただいた。

中里さん:私たち神村酒造が泡盛を通して届けたいのは、「人と人とのつながり」や「温かい時間」です。
具体的な今後の展望としては、私たちの造る泡盛を単独で売るのではなく、沖縄の豊かな文化と共に発信、提案していきたいと考えています。
まず、泡盛を飲むときに器が必要ですから、琉球ガラスのグラスやカンヌ・ガラでも提供したカラカラとちぶぐわぁーなどのやちむん(沖縄の焼き物)を使っていただけたらいいですよね。肴には、もはや一般的になったゴーヤチャンプルーでもいいですし、黒糖のような沖縄の特産品を合わせてもいいと思うんです。

さらには、そうした美味しいお酒や肴を口にする心地よい時間には、BGMも欲しくなります。沖縄は「歌の島」とも呼ばれており、音楽をはじめとする多様な文化が息づいています。そうしたモノやコトのそばにはおいしい泡盛があり、そのマリアージュで「豊かな時間」や「ライフスタイル」が生まれる。そういったすべてをひっくるめた沖縄の魅力を広めていきたいのです。
そうそう。その昔、ペリーが日本に行く前、琉球(現在の沖縄)に立ち寄ったときのことです。黒船の船影を見た琉球の人たちはすぐに、「武力で敵うわけがない」と悟ります。そこでどうしたかというと、丁重におもてなしをしたのです。毎日、音楽を奏で、踊りを見せ、美味しいものを振る舞い、酒を酌み交わしたそうです。
その歓待にペリーは、平和的で文化的な琉球の人たちの真心を見出し、感銘を受けたため、武力衝突を避けることができたと聞いています。緊張感ある交渉の場で、泡盛は平穏に一役買っていたのです。
私はずっと、泡盛には「人と人をつなぎ、縁(えにし)を取り持つ」という力があると信じてきました。お酒を酌み交わしながら語り合えば、どんな相手とも心が通じる瞬間が生まれると感じるからです。今、世界中で様々な衝突や問題が起きていますが、各国のトップ同士が泡盛を飲みながら「まあまあ」と言ってくれたら、少しは平和になるんじゃないかな…と夢みたいなことを本気で思ってしまうんです。

泡盛は、単なるお酒ではなく、平和で豊かな時間を作り出すための大切な沖縄の文化なのです。家族や友人と「カリー!(乾杯!)」と言い合い、ニコニコして過ごすひととき。その輪が、泡盛を通して世界中に広がっていくことが最大の願いであり、私の理想なのです。
後記:
中里さんのお話を伺ううちに、「ちむぐくる」という沖縄の島言葉を思い出した。
「ちむぐくる」とは、真心やおもいやりなどと訳されることも多い。そのほかに、他者の苦しみを自分の事のように感じる深い慈しみもまた、この言葉の意味だとされている。こうした誰かのために…という考え方は、近年、世界中で求められじわじわと広がりを見せている「利他」(他者の利益や幸福を望む考え方)という言葉に通ずる気がした。
表層的ではない他者への思いやりや優しさを備えている人たちが生み、育んできた文化の結晶だからこそ、泡盛「暖流」ブランドは国境や人種を飛び越え、深く染み入るように受け入れられるのだろう。
これからの時代、これからの世界に、神村酒造の真心が詰まった泡盛「暖流」ブランドはまだまだ求められていきそうだ。




