
「組織がうまくいかない理由は、人ではありません。ほとんどの場合、誤解と錯覚です」
こう語るのは、株式会社識学の安藤広大社長です。
株式会社識学は、独自の組織マネジメントメソッドである「識学」を使った企業組織のコンサルティングをこれまで5,000社以上の会社に提供してきました。
先日開催されたセミナーでは、「組織の造り方・変え方」をテーマに、感情やモチベーションに頼らず、論理と仕組みで組織を動かす考え方が語られました。
その内容は、企業経営にとどまらず、政治組織や地方創生の担い手である「まちづくりの組織」にも通じる興味深いものでした。
兄貴肌リーダーの失敗から始まった組織論
安藤氏は、NTTドコモを経て、ジェイコムで取締役営業副本部長を務めた経験を持ちます。当時の自身について、「典型的な兄貴肌だった」と振り返ります。
自ら先頭に立って成果を出し、部下のトラブルはすべて引き受け、飲みニケーションも欠かさない。いわば“慕われる上司”だったと言います。しかし、その姿勢こそが、組織の成長を止めていたと気づいたそうです。
「自分が一番成果を出し、すべてを肩代わりしてしまうと、部下は失敗も成長もしなくなります」
この限界を痛感した安藤氏は、2010年に「識学」と出会い、マネジメントを根本から転換しました。人の気持ちを読む「国語的」な管理から、答えのある仕組みを用いる「物理・数学的」な管理へ。その転換が、現在の識学の基盤となっています。
識学とは「誤解と錯覚」をなくすための理論

識学は、人が物事をどのように認識し、行動に移すのかという「意識構造」に着目した理論です。組織のパフォーマンスを下げる最大の要因は、能力不足ではなく、認識のズレにあると定義しています。
たとえば、会社という組織で「話し合い」や「納得」を重視しすぎると、意思決定は遅れ、責任の所在が曖昧になります。友人関係のように責任者がいない集団では話し合いが必要ですが、責任者が明確な組織では「責任者が決める」ことが、誤解を防ぐ唯一の手段だと安藤氏は述べます。
「上司は現場の情報を集めるべきですが、最終的な決断まで相談してはいけません。決断は、権限として上司が行うべきものです」
この線引きができていない組織では、部下が上司を対等な立場と錯覚し、指示が機能しなくなります。
組織を自動で回す「5つの仕組み」
安藤氏は、経営者が現場に常駐しなくても成果が出る組織をつくるために、5つの仕組みを提示しました。姿勢のルール、組織図、責任と権限の一致、週次会議、評価制度です。
これらに共通するのは、すべてが「結果ベース」で設計されている点です。
特に印象的だったのが「姿勢のルール」の考え方でした。「頑張る」「意識を高く持つ」といった抽象的な表現ではなく、誰が見ても結果が一致する「完全結果」で定義します。
挨拶や期限の遵守といった能力不要のルールは、評価項目ではなく、「守らなければ組織にいられない最低条件」として扱います。これは、情緒的な管理ではなく、組織に属するための前提条件として位置づけられています。
また、安藤氏は、360度評価についても否定的です。責任を負わない立場の人間が評価に関与すると、組織の位置関係が崩れ、無責任な「評論家」を生みやすくなります。評価者を一本化し、責任と権限を必ず一致させることが重要だと強調しました。
理念は「共有」するだけでは機能しない

理念を掲げる組織は多くあります。しかし安藤氏は、「理念を共有しているだけでは、組織は動かない」と指摘します。問題は、理念そのものではなく、理念をどのような行動に落とし込むかにあります。
理念のもとに人が集まると、「同じ方向を向いている」という安心感が生まれます。一方で、その理念をどう実現するかについては、個々人の解釈に委ねられがちです。ここに、組織が不安定になる要因が潜んでいると安藤氏は語ります。
参政党代表神谷氏との共著も発刊
2026年1月21日に発刊された、参政党代表神谷宗幣氏との共著『理念ファーストの組織運営 参政党はなぜつよいのか』で扱われている参政党の組織運営事例も、その典型だといいます。理念に共感した個人が集まり、急速に拡大した一方で、組織としての運営が追いつかず、内部で摩擦や衝突が生じる局面もありました。
安藤氏が重視したのは、「悪い人がいるかどうか」ではありません。同じ理念を持っていても、理念に近づくための行動のイメージは、人によって少しずつ異なるという事実でした。このズレを放置すると、組織は必ず混乱します。
そこで必要になるのが、「何が理念に近づく行為なのか」を、誰かが定義することです。理念を掲げるだけでなく、「どこまでを決め、どこからを任せるのか」「誰が責任を負い、誰が判断するのか」を明確に線引きする。安藤氏は、この責任と権限の境界を明確にしたことが、組織の安定につながったと振り返ります。
理念は、全員で解釈するものではありません。組織においては、理念の解釈を統一し、行動基準として固定する仕組みがあって初めて力を持ちます。そうでなければ、理念は人をつなぐどころか、人を分断する原因にもなり得ます。
地方創生・NPOこそ、識学が問われる現場

地方創生の現場では、NPOや地域団体など、少人数で運営される組織が数多く存在します。活動の原動力となっているのは、メンバー一人ひとりの善意や使命感です。
一方で、安藤広大氏は、そうした組織ほど運営が属人的になりやすいと指摘します。「やれる人がやる」「分かる人が背負う」状態が続くことで、特定の個人に負荷が集中し、疲弊や対立を招きやすくなるからです。
さらに安藤氏は、社会的に「良いこと」をしている組織ほど、どこかで成果を出す努力を諦めてしまいがちだとも語ります。しかし、本当に良いことを成し遂げようとするなら、成果は欠かせません。そのためには、善意や気持ちだけに頼るのではなく、一定のルールに基づき、無駄のない運営を行うことが重要だと強調します。
社会的意義と効率は、決して相反するものではありません。むしろ、成果を生む仕組みを整えることこそが、活動を持続させる力になります。識学は、大企業だけでなく、人数の少ない組織にこそ必要な土台なのです。
「今」ではなく「未来」で判断する
講演全体を通じて繰り返し語られたのが、「時間軸」という視点でした。
今この瞬間に優しくすることが、長期的には部下の成長を止め、組織を弱体化させてしまう場合もあります。
「未来の利益を最大化するために、今の摩擦を引き受けられるかどうかが、リーダーには問われます」
この考え方は、企業経営に限らず、政治や地域運営にも共通します。とりわけ、少人数で運営される組織や地方創生の現場では、目先の感情や人間関係に引きずられやすい分、長期視点に立った判断がより重要になります。
識学の組織論は、派手さはありません。しかし、人に依存しない仕組みだからこそ、組織を長く支える力を持っています。善意と情熱だけに頼らず、未来を見据えて組織を運営する。その真価は、少人数組織や地方創生の現場にこそ、問われているのではないでしょうか。
会社情報
株式会社識学
住所:〒141-0032
東京都品川区大崎2-9-3 大崎ウエストシティビル1階
公式サイト:https://corp.shikigaku.jp/
【公式】識学チャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCThiMUsUPCeTVewO_WWPHwg




