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自然  |    2025.06.11

富谷山からのシーベッド ~歴史の底を眺める~

富谷山。とみやさん。

茨城県の桜川市にある山です。水戸市から西、筑波山からは北、栃木県の県境の近くにある。標高、およそ365m。この山の上を目指してみることにしましょう。

富谷山にアタック!

二つのルートがあります。一つは徒歩の登山道。もう一つは車道で、曲がりくねった道路を自動車で上ります。今回は、車道で向かいました。JR水戸線の「岩瀬駅」から北へ進む。入口を示す石碑が見えてきます。

富谷観音参道の入口

もっとも、自動車だけでなくて、バイクや徒歩で車道を上り下りする人もいるようです。

カーブが続く車道

しばらく進むと、広い駐車場とお寺が見えてきます。案内板がある。その内容を引用しましょう。

小山寺の案内板

小山寺(富谷観音):天平七年(七三五年)、聖武天皇の勅願により行基菩薩が開山したと伝えられ、古くから開運、安産、子育ての祈願所として知られている。本尊の十一面観音菩薩は行基の作、脇士不動尊は慈覚大師の作、多聞天は運慶の作と伝えられている。本堂は四柱作りで江戸時代に再建された。三重塔は寛正六年(一四六五年)、多賀谷朝経が旦那となり大工宗阿弥家吉とその息子によって再建された。関東以北ではまれにみる室町時代の塔で、細部の装飾にすぐれ、屋根はこけら葺で、頂上には鉄及び銅製の相輪がある。』

聖武天皇。行基。運慶。江戸時代。三重塔。室町時代…。

歴史の授業で聞いたワードが並んでいます。案内板の近くに、この小山寺(おやまじ)の境内へと続く門がありました。…しかし門の横には、さらに山の上のほうへと続く車道が伸びている。まず、展望台。先に、こちらに向かってみましょう。

展望台への道

細い道でしたが、行き止まりには駐車場が整備されていました。あずまやの展望台があり、小高い丘になっています。…うん、眺めが素晴らしい!

富谷山の展望台

「まあ、こんな感じか」

私は展望台から引き返し、小山寺の門へと戻りました。…ただ、その途中に、車では行けなさそうな横道があったことが少し気になりました。

小山寺(富谷観音)

車を広い駐車場に停めて、徒歩でお寺の境内へと進みます。しばらく歩くと、古めかしい仁王門が見えてきた。

小山寺の仁王門

その仁王門の向こうに、かなりの傾斜がある石段が待ち構えている。…ほう、これを上がれ、と。内心で少しひるみましたが、ここまで来て上らない選択肢はありません。

小山寺の石段

自分を励ましながら、一段ずつゆっくりと歩く。さあ、その上は…!

小山寺の本堂

広場に出ました。石段の右手に、朱色の立派な本堂が建っています。しかし私は背後から、ただならぬ気配を感じ取った。恐る恐る、振り返る。その視線の先に飛び込んできたのは…。

「さ、三重塔…!」

小山寺の三重塔

荘厳な雰囲気に包まれています。こんなにも立派な三重塔が、室町時代の昔に建てられて、令和時代の今でも変わらず立っている。…何度も何度も、戦乱や自然災害に遭ってきたことでしょう。雨の日、風の日、そして雪の日。幾星霜を生き抜いて、ずっとそこに立ち続けてきた。

お寺からの眺めもまた、素晴らしいものでした。大満足。よし、帰ろう。小山寺を出て、駐車場へと戻った私。…しかし、その脳裏に、どうしてもぬぐえない疑問が残っていた。

「展望台から小山寺に戻る際に見かけた、あの横道は何だったのだろう?

謎の横道

私は心を決めると、駐車場に車を置いたまま、徒歩にてその横道へと向かったのでした。

古東京湾、最奥の地

最初に訪れた展望台と異なり、今度は手探りです。何も無かったらどうしよう? 不安が頭をかすめた頃、奇妙な塔が見えてきました。

「…なんだ、これは?!」

それは、鉄製の青い塔でした。

富谷山の隠れた展望塔

先ほど見た中世の三重塔とは異なり、現代的な螺旋階段が上へと伸びています。私は、三重塔とはまた違う、ただならぬ雰囲気を感じた。この上に、何かがある。気が付くと私は塔の中に入り、螺旋階段を上っていたのです。頭の中で、子どもの頃に聴いたゲーム音楽、ドラゴンクエストの塔の音楽が鳴り響いている。大冒険…。

果たして、その塔の上にあったもの、それは。

富谷山の展望塔より

「す、凄い…」

息を呑みました。そこにあったのは、見渡す限りの関東平野の絶景! しばし、呆然と立ちすくむレベルです。空が青い。雲が白い。加波山と筑波山が遠くに見えます。岩瀬の街が一望できる。

『高峯・富谷山ジオサイト』

そう書かれた説明版が置いてありました。説明書きを引用しましょう。

かつての湾のいちばん奥、岩瀬盆地と周囲の山々:目の前に広がる岩瀬盆地には、約13万~12万年前などの暖かく海水面が高い時期に海が入り込みました。盆地の内部には、その時に積もった砂や泥の地層が分布しています。一方、盆地をとりまく山々は、約8,000万~6,000万年前に、マグマが冷えて固まった岩石や、約1億5,000万年前に海底で積もった砂や泥が固まった岩石(砂岩・泥岩)などでできています。』

古東京湾最奥の地:気候が温暖な時期には、「古東京湾」と呼ばれる湾が現在の関東平野に広がっていました。特に、約13万~12万年前には岩瀬盆地まで海が入り込み、当時の海底で堆積した地層は、盆地内に海抜高度45m前後の台地として残されています。』

そう、関東平野は、海の底だった。海水面が高い時期、関東平野は平野ではなく海、湾だったのです。茨城県の北の岩瀬盆地。ここまで海の水が来ていた。

…私たちが生活している足元、その大地には、知られざる歴史の地層が積み重なっています。

そんな時の流れの跡を見せてくれる富谷山。歴史や地理への興味を惹いてくれます。子どもの勉強にもなるでしょう。車道がしっかり整備されていて、家族連れにもお勧め。何よりも眺めが素晴らしい! ぜひ、皆様も上ってみてくださいね。

富谷山

アクセス

◆公共交通機関:最寄り駅はJR水戸線「岩瀬駅」です。駅から北へ約2キロの位置にあります。駅から国道50号を横断して、しばらく進むと正面に富谷山が見えてきます。山の正面の麓からの登山道と、西の麓からの車道があります。

◆自動車:最寄りの高速道路のインターは「桜川筑西インター」です。インターを降りて国道50号を東の笠間市方面へと向かい、岩瀬駅前の二つ前の交差点を左折、県道41号線を益子町方面に北へ向かいます。しばらく道なりに進むと「富谷観音参道」と刻まれた石碑が見えてきます。そこが車道の入口です。坂を上がったところの小山寺(富谷観音)近くには、無料で停められる駐車場が25台分あります。

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この記事を書いた人

ヒストジオいなお

茨城県、水戸市、またその周辺の情報をシェアしていきます。歴史と地理が好きです。食べ歩きも好きです。

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