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人  |    2026.07.31

食を通じて人と文化をつなぐ——仙台、東京、香港へ渡ったシェフ・金須郁幸のもとに人が集まる理由【後編】

左:金須郁幸さん、右:佐藤峻さん

前編では、東日本大震災をきっかけに料理の道を志し、東京での修業、そして香港での挑戦を経て、シェフ・金須郁幸さんがどのような価値観を育んできたのかを紹介した。

前編はこちら

食を通じて人と文化をつなぐ——仙台、東京、香港へ渡ったシェフ・金須郁幸のもとに人が集まる理由【前編】

後編では、その想いを形にしたCENSU TOKYO(センス)のお店づくりや、人との向き合い方、そしてこれから描く未来について話を聞いた。

人と文化が交わる場所を、東京に

店内の様子

香港での経験を通して、金須さんは食が人と文化をつなぐ力を実感した。

料理を提供するだけではなく、人が出会い、会話を交わし、新しいつながりが生まれる場所。

それらを目の当たりにしたことで、自分自身もそんな空間をつくりたいという思いが強くなっていったという。

そして香港での経験を経て帰国後、その思いを形にしたのがCENSU TOKYOだった。

金須さんが目指したのは、ただ料理を提供する飲食店ではない。

「家みたいな場所にしたかったんです」

誰かがふらっと立ち寄り、食事をして、会話をして帰っていく。

そんな温度のある場所を思い描いていた。

その理想は少しずつ形になり、人が集まり、新たなつながりが生まれる場所へと育っていった。

自分のお店を持って見えたもの

キッチンの様子

実際にお店を始めると、そこには想像以上の責任があった。

料理をつくることだけではない。経営、人材育成、チームづくり。スタッフの生活やお店の未来まで考える立場になり、自分自身の意識も大きく変わっていったという。

「今は、みんなの人生を背負っている感覚があります」

お店を持ち、人が増え、チームができる。

その過程で、“自分一人の場所ではない”という感覚が強くなっていったそうだ。

一方で、どんなに環境が変わっても、大切にしている価値観は変わらない。

それが、「人として当たり前のことを大切にする姿勢」だ。

「挨拶をすること、ありがとうやごめんなさいをちゃんと言うこと、嘘をつかないこと。それはずっと大事にしています」

飲食の現場では、家族より長い時間を共に過ごすこともある。

だからこそ、技術以上に信頼や信用が必要になる。

スタッフにも、日頃からこう伝えているという。

「どのお客様も、自分の大切な人や家族だと思って料理をつくってほしい」

接客や衛生面について厳しく指導するのも、その考えが根底にあるからだ。

「料理って、ダイレクトに人を笑顔にできるんですよね」

その言葉には、これまで多くの人と向き合ってきた実感がにじんでいた。

CENSU TOKYOに人が集まる理由。

それは料理の技術や流行だけではない。

人と向き合い、信頼を積み重ねる。その積み重ねが、このお店ならではの空気をつくり出しているのだろう。

一日の始まりと終わりに、寄り添いたい

提供料理

金須さんは、CENSU TOKYOにとどまらず、新たな可能性にも目を向けている。

「最近は、朝食やよりカジュアルな業態にも興味がある」という。

週に何度もふらっと立ち寄れて、気づけば誰かに会える。そんな日常に近い場所だ。

「もっと身近な人が来やすい場所をつくりたいんです」

そう話す金須さんに、なぜ朝食なのかを尋ねると、少し考えながら言葉を続けた。

「1日のスタートを、自分の食を通して始めてもらえたらいいなと思うんです」

朝、お店で食事をして仕事へ向かう。

そして夜は、また食事をしながら一日を振り返る。

「朝来てもらって、夜も来てもらって。その人の一日の始まりと終わりに関われたらうれしいですね」

そこにあるのは、単に食事を提供したいという思いではない。

人の暮らしに自然と溶け込み、日常の一部になる場所をつくりたい。

特別な日に訪れるお店ではなく、何気ない日常のなかでふと立ち寄りたくなる場所。

その想いは、これまで金須さんが大切にしてきた「人が自然と集まる場所」という考え方にもつながっていた。

これまでの経験を、次の世代へつないでいく

仙台でのイベントの様子

現在も、仙台でイベントを開催するなど、地元とのつながりを続けている。

ただ、その感覚は一般的にイメージされる“地方創生”とは少し違う。

「地元を盛り上げたいというよりは、東京で頑張っている姿を見てもらえたらうれしいんです」

そう話す表情は、とても自然だった。

地元の友人や家族、仙台の人たちに楽しんでもらえること。

そして、自分が外で経験してきたことを少しでも還元できること。

今の金須さんにとって、地元との関わり方は、その延長線上にある。

だからこそ、「仙台にお店を出したい」という明確な目標とも少し違う。

むしろ、海外や東京で経験してきたことを、これからの若い世代へ伝えていくことに可能性を感じているという。

「いろいろ経験してきたからこそ、自分と同じように料理人を志す人が地元から出てくれたら嬉しいですね」

香港、東京、そしてさまざまな文化のなかで得た経験。

それらを自分の中だけに留めるのではなく、次へとつないでいく。

そんな関わり方が、今の金須さんにはしっくりきているのかもしれない。

“着飾らず”に、自分の表現を続けていく

金須郁幸さん

多くの人が集まる場所となったCENSU TOKYO。

その一方で、金須さんは「自分を前に出したい欲はそこまで強くない」と話す。

料理人として有名になりたい。名前を広げたい。

そうした思いとは、少し違う場所にいるのだという。

ただ、CENSU TOKYOという場所で、多くの人や文化が交わるなかで、自分自身の考えや価値観を伝えていく必要性は感じているそうだ。

「でも、無理に着飾りたいわけではないんです」

そう語る姿は、どこまでも自然だった。

これまで積み重ねてきた経験。海外で見てきた景色。そして、そこで出会った人たち。

その一つひとつが、今の金須さんを形づくっている。

だからこそ、背伸びをするのではなく、自分らしい形で表現を続けていきたい。

料理を通して、人と人がつながる場所をつくること。

派手な言葉はなくても、その積み重ねこそが、金須さんのもとに人が集まる理由なのかもしれない。

お店の情報

店舗名:CENSU TOKYO(センス)
住所:東京都渋谷区神宮前2-12-9
TEL:03-6434-5883
HP:ホームページ

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この記事を書いた人

金子 真怜

栃木県出身、関東圏在住。 服飾大学卒業後、アパレル業界を経て、ファッション誌やWEBメディアで企画・執筆・編集に携わる。地域に根ざした人にフォーカスし、その土地にしかない魅力やバックストーリーを現場の空気感ごとリアルにお届けします。

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