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聖地  |    2026.09.11

神玉巡拝で出会う、いのちを見守る二社|冨士御室浅間神社と山中諏訪神社

雨が降りはじめたのは、お昼すぎでした。

富士山のまわりの7つの神社をめぐって「神玉(かみたま)」を集める「神玉巡拝」の旅の途中。名物の吉田のうどんでお腹を満たし、次の目的地、河口湖の冨士御室浅間神社(ふじおむろせんげんじんじゃ)へ着いたところでした。

はじめは、しとしと。ところが参道を歩くうちに雨脚は強くなり、社殿に着くころには土砂降りでした。

雨の音のほかは何も聞こえず、まるで雨が、外の世界とこの神社を切り離しているようでした。

訪ねたのは、この冨士御室浅間神社と、山中諏訪神社。富士山の北麓、河口湖と山中湖のほど近くに鎮座する二社です。

土砂降りの冨士御室浅間神社。朱色の門のむこうに、黒い社殿が見える

神玉巡拝とは?7つ集めて1つのお守りに

富士山麓の7つの神社では、参拝の証として「神玉」を受けられます。

神玉は、神社ごとにゆかりのある絵柄が描かれた木製の玉です。7社を巡って集め、神紐(かみひも)を通すと、ご縁をつないだ1つのお守りになります。神紐の色は神社ごとに決まっていて、揃うと七色の房が扇のように広がります。

7つの神玉を神紐でつないだ姿と、七色の房。右は7社すべてを巡ると受け取れる「神社巡拝達成証明書」。もともとは茨城県の神社で始まった取り組みで、富士山麓では若手神職の皆さんの呼びかけで実現した

一社目・冨士御室浅間神社——武田信玄も祈った、富士山最古の社

広い境内と、1300年の歴史

境内は、思っていたよりずっと広いところでした。大鳥居周辺は桜並木になっており、そこから奥の社殿まで砂利道がまっすぐに続いています。春、その桜が満開になるころにも訪ねてみたくなりました。

境内の案内板によると、ここは富士山でいちばん古い神社で、今から1300年以上前の西暦699年に富士山の二合目に祀られたのが始まりだそうです。世界文化遺産「富士山—信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産のひとつでもあります。

御祭神は木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)。案内板には「ムスビの神」とあり、そのご神徳として、子授け、安産、良縁、夫婦円満……などが挙げられていました。

大鳥居のあたりは桜並木。そこから境内の奥へ、石灯籠の並ぶ砂利道がまっすぐ続く

武田信玄が、子の安産を祈った神社

参道の入口に立つ標柱に、こんな文字がありました。

「武田信玄公安産祈願所」

戦国武将と、安産。すこし、意外な組み合わせです。

境内の銅板によると、この神社には武田信玄が自筆で書いた安産祈願の文が伝わっているそうです。信玄の父・信虎の代に社殿が修復され、以来ここは武田家の祈願所になりました。

甲斐の虎と呼ばれた武将が、戦の采配をふるったその手で、子の無事を願う文を書いたのです。なんだかほほえましく、ふっと親しみがわきました。

参道の入口に立つ「武田信玄公安産祈願所」の標柱

山を背にする本宮、湖を背にする里宮

この神社には、社殿が二つあります。

ひとつは、富士山を背に立つ本宮。朱塗りの美しい建物で、本殿は国の重要文化財です。もともと富士山の二合目にありましたが、永く守るために、そっくり現在地へ移されました。

もうひとつは、河口湖を背に建つ里宮。参拝しやすいようにと、西暦958年に、老松の茂るこの地へ建てられたお社です。こちらは深い色の木肌で、雨に濡れていっそう黒く見えました。

二つの社殿は、山と湖を背負って向かい合っています。朱と黒、富士山と河口湖。富士山麓という土地が、そのままこの境内にあるようでした。

富士山の二合目から移された本宮。本殿は国の重要文化財
雨に濡れた里宮。現在の社殿は明治22年の再建

授与所で、神玉と神紐、御朱印を授かりました。神紐は、まっさらな白です。

冨士御室浅間神社の神玉と白い神紐、そして御朱印。朱印には「冨士山」「最古」の文字が読める

二社目・山中諏訪神社——赤ちゃんを抱いた神さま

社殿を見上げて、声が出ました

山中湖に着くころには、雨が上がっていました。

湖畔の道路から、ひっそりと小道が一本のびています。数十メートルほど歩くと、木立に囲まれた静かな神社が現れました。山中諏訪神社です。

湖畔の道路に立つ「諏訪神社」の石柱。ここから小道を入っていく

地元では「山中明神」とも呼ばれています。社伝によれば、疫病を鎮めるために村人が祀ったのが始まりで、創建は西暦104年。1900年以上、この地に鎮座していることになります。

山中諏訪神社の拝殿。「諏訪大明神」と書かれた提灯が下がる

お参りをして、社殿の美しい彫刻を見上げていると、思わず「あっ」と声が出ました。

そこに、赤ちゃんがいたんです。

冠をかぶった女神さまが腕に抱いているのは、おくるみに包まれた小さな赤ちゃん。その背後には、見守るように龍がいます。

拝殿の彫刻。赤ちゃんを抱くのは、主祭神の豊玉姫命

臨月の妊婦さんも、神輿を担ぐ

この神社の主祭神は、豊玉姫命(とよたまひめのみこと)。海の神さまの娘で、神話では、産屋の屋根を葺き終わらないうちにお子さまを産んだと伝えられています。そこから安産の守り神として、全国に知られてきました。

そして毎年9月4日から6日に行われる例大祭が、その名も「安産祭り」。

境内の由緒板を読んで、二度見しました。

なんと妊婦さんも、神輿を担ぐのです。

臨月に近い正装の女性たちが、競って神輿にすがりつきます。神輿に触れることで神さまに近づき、ご利益が約束されるのだそうです。赤ちゃんを背負ってお礼参りに来た人も、いっしょに担ぎます。

御旅所から戻った神輿が、「もうそろ、もうそろ」と御神歌を唱えながら境内を練り歩きます。御神木を3回まわると、祭りは最高潮を迎えます。

「孕み祭」「はらほて祭」とも呼ばれ、全国から参詣者が訪れる奇祭として知られています。

安産祭りの夜。神輿を先頭に、大勢の人が数珠つなぎになって境内を進む(写真提供:山中諏訪神社)

山中湖の方言で「おぼちゃん」

授与所で、かわいらしいお守りを見つけました。

ちりめんの布に包まれた、手のひらに乗るくらいの人形です。名前は「おぼちゃん」といいます。掲示によると、「おぼ」は山中湖の方言で、かわいい子——つまり赤ちゃんのこと。

子宝・安産・子育てのお守りで、ひとつずつ手作りです。色も柄もぜんぶ違います。妊活中・妊娠中の方、子育て中のご家庭へのお土産にぴったりだなと思いながら、しばらく眺めていました。

授与所に並ぶ「おぼちゃん」(右)と、その案内(左)。ひとつずつ手作りで、色も柄も違う

こちらでも神玉と神紐、御朱印を授かりました。神紐は菫(すみれ)色。やわらかい薄紫です。

山中諏訪神社の神玉と菫色の神紐、そして御朱印。墨で大きく書かれているのは、主祭神の「豊玉姫命」

神玉を追いかけた先に、子を思う祈りがあった

振り返ってみると、この二社はどちらも「子を授かる」祈りの場所でした。戦国武将が我が子の無事を願った古社と、いまも妊婦さんが神輿を担ぐ神社。時代も場所も違うのに、願っていることは同じです。

雨の音に包まれた参道も、赤ちゃんを抱いた木彫りの神さまも、神玉を集めていなければ、知らないままでした。

今回は河口湖と山中湖で、二つの神玉を授かりました。次に富士山へ行くときは、どうか晴れますように。

あわせて読みたい|富士山麓の神玉巡拝記事

冨士御室浅間神社の基本情報

所在地
〒401-0310
山梨県南都留郡富士河口湖町勝山3951

電話番号
0555-83-2399

社務所の開所時間
9:00〜16:00
※ご祈祷の受付は9:30〜15:30

駐車場
あり(無料・60台)

車でのアクセス
中央自動車道・河口湖ICから約12分

公共交通機関でのアクセス
富士急行線・河口湖駅から西湖周遊バス(グリーンライン)で16分、「富士御室浅間神社」下車すぐ

公式サイト
https://www.fujiomurosengenjinja.com

山中諏訪神社の基本情報

所在地
〒401-0501
山梨県南都留郡山中湖村山中13

電話番号
0555-62-3952

授与所・御朱印の受付時間
9:00〜17:00
※ご祈祷の受付は10:00〜16:00

駐車場
神社下駐車場、または湖畔の無料駐車場をご利用ください

車でのアクセス
東富士五湖道路・山中湖ICから約5分

公共交通機関でのアクセス
富士急行線・富士山駅からバスで約35分、「ホテルマウント富士入口」下車、徒歩約10分

公式サイト
https://www.suwajinja.com

神玉巡拝の基本情報
  • 神玉初穂料:1社につき500円
  • 神紐初穂料:1社につき300円
  • 対象:富士山麓の7社
  • 7社をすべて巡ると、最後に参拝した神社で巡拝達成証明書を受け取れます
  • 神玉の絵柄と神紐の色は、神社ごとに異なります

各神社の神玉授与時間やモデルコースなど、神玉巡拝の最新情報は以下をご確認ください。

富士山麓神玉巡拝ガイド(富士吉田市観光ガイド)
https://fujiyoshida.net/course/index.php?p=course-530

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この記事を書いた人

宮沢 まみ

山梨県甲府市在住の取材ライター。 地元・山梨を拠点に、観光地や地域に根ざすお店を訪ね、土地の物語や人の想いを丁寧に取材・執筆しています。海外生活の経験も活かし、日本各地の観光と暮らしの魅力を伝えることを目指しています。

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