家でも職場でもない、けれど落ち着いて過ごせる居場所がサードプレイスです。カフェに行くと、本を読みながらくつろぐ人をよく見かけます。
もしもそれが、ビールや日本酒を飲みながら本に没頭できる店なら。お酒好きな読書家にとって、これ以上ない空間かもしれません。
そんな夢のような店が、埼玉県川口市にあります。その名も「本と豆料理 豆千」。お酒と本を愛する人が集うサードプレイスです。
週末だけ灯りがともる「本と豆料理 豆千」
「本と豆料理 豆千」(以下、豆千)は、週末だけ灯りがともる小さな店です。

店主の笠井隆太さんは、ご自身も大のお酒と本好き。彼は会社員とのダブルワークで豆千を営んでいるため、営業日と時間は変則になっています(金曜の夜と土曜に営業することが多いです)。
いつかは本に携わる仕事をしたい、と思いながら、会社員として20年以上働いてきた笠井さん。2024年11月、彼は封印していたその夢を実現させました。

「会社帰りに、ゆっくりお酒を飲みながら本を読みたかったんです。でも、僕の場合はバーだと緊張しますし、居酒屋では賑やかな雰囲気にそぐわない気がして。そこで、本の販売とお酒の提供をする店を自分で作りました。週末は飲食系書店として、平日は自分自身の読書部屋として」
その思いを感じられるのが、天井まで届く大きな本棚。

テーブルの上には、笠井さんおすすめの本が平積みにされていました。奥のベンチにはお買い得の古本もあります。

豆千にある本は、ほとんどが食べものとお酒にまつわるものです。その理由を、笠井さんは次のように話します。
「食べものやお酒は、どのジャンルの本にも登場します。小説、エッセイ、実用書…。絵本やコミックにも出てきますし、写真集のようなレシピ本もありますよね。食べものとお酒をテーマに本を集めれば、いろいろなジャンルを楽しめますし、肩肘張らずに読めますから」
気負わずふらりと立ち寄って、お酒を楽しみながら本に没頭できる。豆千はとっておきのサードプレイスです。
店主自慢のお酒と豆料理
豆千にあるお酒は、厳選されたとっておきの銘柄ばかりです。

日本酒を仕入れる際、笠井さんはいつも近所の酒屋へ足を運びます。
「お店の方におすすめを伺い、時には試飲もさせていただいて、気に入ったものだけを置いています。秋はひやおろし、春先は生酒と、季節の日本酒を楽しめる時期もありますよ」
ビールは常時、5種類ほど取り揃えています。定番はキリン「ハートランド」と、川越市にあるブルワリーの「COEDO 毬花(まりはな)」。川口市内のブルワリー「ぬとりブルーイング」のオリジナルビールも人気です。

日本酒とビールのほか、ウイスキーやリキュール、焼酎も揃っています。豆千オリジナルラベルのウイスキーは、笠井さんのご友人からのプレゼントです。
取材日は、バレンタインにちなんだチョコレートリキュールがありました。豆千では「大人のココア」として提供しています。

豆千はお酒だけでなく、食べものもおいしいと定評があります。メニューは店名のとおり、豆料理が主流。笠井さんは子どもの頃から豆が好きだったそうです。
料理のコンセプトは2つ。1つは日本酒かビールに合うこと、もう1つは読書を妨げないことです。ヒントになったのは、神保町にあるビヤホール「ランチョン」のビーフパイにまつわるエピソードなのだそう。

「ランチョンのビーフパイは、本を読みながら片手で食べられます。これは、英文学者だった吉田健一さんの『会話や読書を妨げない、手づかみできるメニューを』というリクエストから生まれた一品です。僕も読書の邪魔にならない、スプーンで食べられる料理を中心に提供しています」
豆千を愛し、集う人々
本とお酒、そして豆。笠井さんがこだわりを詰め込んだ豆千は、続々と固定ファンを増やしています。
読書を楽しめる空間といっても、図書館のような会話禁止のルールはありません。ときにはレコードのBGMが流れることも。

笠井さんは「お客さんはご近所の方と、SNSで店を知った本好きの方が多いですね」と話します。
「どちらかと言えば、女性のお客さんが多いでしょうか。お酒を飲みながらゆっくり読書をしたり、会話を楽しんだりと、皆さん思い思いに過ごしています。初対面のお客さん同士、本をきっかけに話が盛り上がる日もありますよ」
また、豆千には文筆家やイラストレーター、ハンドメイド作家など、多くのクリエイターが訪れます。取材日には、エッセイストのつる・るるるさんがいらっしゃいました。

多くの人々に愛される豆千ですが、営業日・営業時間は不定です。直近の営業予定は店の貼り紙のほか、Xとnoteでも確認できます。
X:x.com/beans_1000
note:https://note.com/mamesen
会社員としての多忙な日々を感じさせず、 やわらかい笑顔で店に立つ笠井さん。彼はどうして、20年間の沈黙を破り、飲食系書店を開いたのでしょうか。後編の記事では、その静かながらたくましい物語を紹介します。
「本と豆料理 豆千」
住所:川口市本町3丁目3−16 オーパスホームズ川口 101
営業日・営業時間:不定(X・noteでご確認ください)
X:x.com/beans_1000
note:https://note.com/mamesen



