前編では、「畑のがっこう」がどんな場所で、どんな活動が行われているのかを紹介しました。
後編では、「なぜ、この活動を続けているのか」「何を未来に手渡したいのか」という根っこにある想いに焦点を当てていきます。
代表の門田ひろこさん(以下、門田さん)が何度も口にされていたのは、「子どもたち」という言葉。
土に触れること、つくる過程を知ること、そして大人が楽しそうに生きている姿を見せること。畑のがっこうは、農業体験の場であると同時に、“生き方そのもの”を伝える学びの場でもありました。
食べることは生き方を選ぶこと│門田ひろこさんが畑で伝え続ける理由

「畑のがっこう」が大切にしているのは、農作業そのものの技術ではありません。門田さんが一貫して語るのは、「何を食べるかは、どんな未来を選ぶか」という、とてもシンプルで本質的な問いです。
門田さんは、飲食の現場に長く立ってきた経験から、ある違和感を抱いてきたといいます。「病気になるのには理由がある。でも、健康でいるためにも理由があると思うんです」。
飲食店を営む中で、体調を崩す人、元氣に働き続ける人、その違いを間近で見てきた門田さん。そこから自然と、「食べもの」「土」「農業」へと関心がつながっていきました。
「小さい頃から土が身近にあったので、やっぱり農業って大事よね、って」
子どもたちは土に触れると“無邪気”になる

畑や田んぼでの活動では、子どもたちの表情が大きく変わります。「無心になるというか、無邪気になるというか。土を触っていると、すごく自然な顔になるんですよね」。
畑のがっこうでは「うまくやること」や「正解」を求めません。泥だらけになり、失敗して、笑って、またやってみる。
その過程そのものが、子どもたちにとってかけがえのない体験になります。「農業者にとっては仕事だけど、子どもたちにとっては遊び。自然の一部なんです」と門田さんは言います。
キライだった野菜が食べられた理由とは

参加した親御さんから、よく聞く声があるそうです。「うちのコ、野菜嫌いだったのに食べたんです」。
門田さんは、その理由をこう語ります。「自分で育てて、自分で料理すると、食べられるようになるんです。そこに命の存在があるから」。
「作る」「待つ」「手をかける」というプロセスを知ることで、食べものは“ただの食品”ではなくなります。
買い物は投票──日常の選択が未来を形づくる

「買い物は投票なんです」。門田さんが何度も口にしていたこの言葉は、とても静かで、同時に強いメッセージを持っています。私たちは普段、価格や便利さで商品を選びがちですが、その選択の裏側では「誰を支えるのか」「どんな仕組みを残すのか」を無意識に決めています。
安さを優先すれば、作り手は価格競争にさらされ、農業を続けることが難しくなる。一方で、顔の見える生産者や地域の食材を選ぶことは、その土地の農業や暮らしを支える行為になります。
畑のがっこうが伝えているのは、正解を押しつけることではありません。「知ったうえで選ぶ」という姿勢です。今日の食卓で何を選ぶか。その積み重ねが、1年後、10年後の社会や環境をつくっていく。門田さんは、買い物という小さな行動の中に、未来への意思表示があることを、畑という場を通して伝え続けています。
楽しい大人がいるから、子どもは未来を信じられる

畑のがっこうで印象的なのは、子どもたち以上に、大人たちがよく笑っていることです。作業の前にお茶を飲み、近況を話し、失敗すら楽しむ。その空気感こそが、門田さんの大切にしているものです。
「大人が元氣で楽しそうだと、子どもは“早く大人になりたい”と思える」。この言葉には、教育や子育ての本質が詰まっています。何かを教え込まなくても、大人の背中そのものがメッセージになる。
忙しさや不安を抱えながらも、土に触れ、仲間と笑い、自然の中で過ごす時間。そんな姿を見て育つ子どもたちは、「大人になること=しんどいもの」ではなく、「面白そうなもの」として未来を描けるようになります。畑のがっこうは、子どものための場所であると同時に、大人が自分自身を取り戻す場所でもあるのです。
畑のがっこうが育てている、子どもたちの未来

畑のがっこうで育てているのは、野菜やお米だけではありません。子どもたちの中に育っているのは、「つながりを感じる力」と「選ぶ力」です。
土に触れ、種をまき、時間をかけて育てる。その過程を知ることで、食べものは単なる商品ではなく、「命のつながり」として立ち上がってきます。野菜嫌いだった子が、自分で育てた野菜を食べられるようになるのも、その実感があるからです。
また、畑は失敗が許される場所でもあります。思い通りにいかない天候、草だらけの畝。それでも続ける中で、考え、工夫し、自分なりの答えを見つけていく。
畑のがっこうが子どもたちに手渡しているのは、「こうしなさい」という答えではなく、「どう選ぶか」という力。その力こそが、これからの不確かな時代を生き抜く土台になるのだと感じました。
取材後記|「畑のがっこう」は、参加することで完成する場所

「畑のがっこう」で育てているのは、野菜やお米だけではありません。門田さんが大切にしているのは、自分で選び、考え、手を動かす力、そして食べたものが体と心をつくっているという実感です。
「土に触れ、作物を育て、味噌を仕込み、みんなで笑う」やっていること自体は、とてもシンプルです。
一連の体験を通して、子どもたちは自然と「命」や「つながり」を感じていきます。そして何より印象的なのは、大人たちが本気で楽しんでいること。その姿が、「早く大人になりたい」と思える未来を、そっと描いてくれていました。
ここでは、正解を出す必要も、立派な意見を言う必要もありません。できる人が、できるときに、できることをする。その空気があるからこそ、初めての人も、子どもも、自然と輪の中に入っていけます。
畑のがっこうは、いつでも「どうぞ」と扉を開けて待っています。
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