「食べたもので、体と心はできている」。
そんな言葉を、体験として受け取れる場所が松山市にあります。おとなも子どもも一緒に田畑に入り、土に触れ、食をつくります。それが「畑のがっこう」です。
今回は、毎年恒例の味噌仕込みの日に取材を行い、活動の様子とともに、代表・門田ひろこさんの想いに触れました。前編では、畑のがっこうの全体像と、味噌仕込みという“手仕事”に込められた意味をお伝えします。
「畑のがっこう」とは

「畑のがっこう」は、不定期の活動で、自然栽培の田畑づくりや手仕事を学べる場です。参加者は親子が中心ですが、大人のみの参加や、多世代での参加も歓迎されています。
活動内容は、田植えや稲刈り、畑作業といった農の体験に加え、豆腐づくりや味噌仕込みなどの手仕事まで多岐にわたります。
特徴的なのは、「学ぶ」「教える」というよりも、「一緒にやってみる」空気感です。
まずはお茶を飲み、会話をしてから作業を始める——そんな時間の流れも大切にされています。

杖ノ淵公園横の田んぼでは、地域の方々や自然栽培農家さんとともに、種を蒔き稲を育て、稲木を立て稲刈りし、天日干しから脱穀までを体験します。畑では、落花生やさといも、玉ねぎなど、季節ごとの作物が育ちます。
ここでは算数も理科も社会も、すべてが畑の中にあります。「なぜ水を張るのか」「どうして草が生えるのか」「この稲が、どうやってごはんになるのか」。
机の上ではなく、体験として学ぶことが、この場所の大きな価値です。
畑のがっこう・代表の門田ひろこさんについて

畑のがっこうを主宰する門田ひろこさん(以下、門田さん)は、これまで和洋食店の経営や離乳食教室、保育園給食づくりなど、長年“食”に関わってきました。その中で強く感じてきたのが、「健康には理由がある」ということです。
病気と健康は別のものではなく、日々何を食べ、どう暮らしているかの積み重ねだといいます。だからこそ、門田さんは「食の入り口」である農業や土に目を向けてきました。
畑のがっこうのモットーは、「楽しく、笑って、面白く」。無理をせず、できる人ができることを、できる分だけ。
「大人が元氣で楽しそうだと、子どもは“早く大人になりたい”と思えるんです」と門田さんは話します。子どものための活動でありながら、実は大人自身が元氣を取り戻す場でもある。それが、畑のがっこうの根底にある考え方です。
毎年恒例の味噌仕込みに密着

この日行われたのは、毎年恒例の味噌仕込みです。自然栽培のお米を作り続けている農家「うかのわ」の岡崎さんが約10年前に始めたのがきっかけです。
会場には、親子連れや地域の人たちが集まり、和やかな雰囲気の中で作業が進みます。米麹と塩を丁寧に混ぜ、次第に手の中でまとまってくる感触を確かめながら、「爆弾みたいに丸めて」味噌玉をつくります。

子どもたちは、大人にとっては“作業”になりがちな工程を、まるで遊びのように楽しんでいました。
「ここでできる味噌は、この場にいる人だけでできているわけじゃないんです」。門田さんは、地域の人がこの場所を守り、木を整え、薪を用意してくれている背景も含めて、「味の奥行き」だと語ります。
「味噌は発酵の楽園なんです」と門田さんが語るように、目に見えない働きが積み重なって、ようやく“その家だけの味”が生まれていきます。

特別な健康食品を探さなくても、身近にある味噌をきちんと選び、食べることで、体は整っていく。そんな考え方が、この味噌仕込みには込められています。
ただ材料を混ぜるだけではない。人の手、人との関係性、時間——それらすべてが重なって、味噌はできていきます。
味噌の材料と製法へのこだわり

使われる材料は、米麹・大豆・塩のシンプルな3つ。しかし、その一つひとつに、門田さんたちの明確なこだわりがあります。
使用する米麹は、地域で大切に育てられたお米を使い、菌を“入れる”のではなく、お米に自然につかせていく昔ながらの製法でつくられたもの。発酵の力を人為的に操作するのではなく、自然の流れに委ねる姿勢が貫かれています。自然の流れで発酵させた麹は、香りや旨みがまったく違うそうです。

塩についても、「どこで、誰が、どのように扱っているか」を大切にし、信頼できる人との対話を通して選ばれたものを使用しています。材料選びそのものが、地域とのつながりを育む行為になっています。
仕込みの工程では、米麹と塩を丁寧に混ぜます。そこに煮上げた大豆を合わせ、手で丸めて空気を抜きながら仕込んでいきます。
この味噌は、すぐに完成するものではありません。仕込んだ後は、木樽や容器の中で一年ほど眠らせ、時間と微生物に委ねます。
「また来年も作りたい」参加者の声に表れる味噌仕込みの魅力

畑のがっこうの味噌仕込みに参加した人たちから多く聞かれるのが、「楽しかった」「また来年も参加したい」という声です。
特に印象的なのが、子どもたちの反応です。大人が見ると“作業”に見える工程も、子どもたちにとっては、丸めて投げ入れる感覚が遊びに近く、自然と笑顔が生まれます。食べものができる過程に関わることで、集中力が高まり、無心になる姿も見られます。
味噌仕込みの場は、単なるワークショップではなく、人と人が再会する“年中行事”のような側面も持っています。
「もう一年経ったんだね」「大きくなったね」といった何気ない会話が交わされ、地域の中で緩やかなつながりが育まれていきます。門田さんは、「点だった関係が、線になっていく感覚がある」と話します。

手作りの味噌には、味や栄養だけでなく、その場で共有した時間や記憶も一緒に詰まっています。
味噌仕込みは、食べること、作ること、人とつながることが、一度に結びつく体験。その積み重ねが、子どもたちの中に確かな感覚として残っていきます。
だからこそ参加者は、市販品との違いを“説明”ではなく“体感”として受け取り、日常の食卓にその価値を持ち帰っていくのです。
前編まとめ

畑のがっこうが大切にしているのは、特別なことではありません。土に触れ、育て、食べる。
その当たり前の循環を、楽しく続けていくことです。味噌仕込みは、その象徴のひとつ。手を動かし、人と話し、時間をかけて待つ。そのすべてが、未来への種まきになっています。
後編では、門田さん自身の原体験や、なぜ今この活動を続けているのか、さらに深く掘り下げていきます。




