
ふと訪れた静岡県沼津市で見つけた、レトロな外観のお店。なんとも言えない雰囲気が気になる……。なにかありそうな気がする。
吸い寄せられるように扉を開けてみると、まるで外国のレトロな映画に迷い込んだかのような店内。日本の喫茶店には珍しい、2階分はありそうな開放的な吹き抜けの天井に、ゆったりとしたテーブル席。アートやカルチャー好きにはたまらないアイテムの数々が。そして長い時間をかけて育まれた、不思議な魅力がありました。
お店の名前は「マリー・ルウ」。ご機嫌でチャーミングなご夫婦が営む、どこか懐かしくも新鮮なレトロな喫茶店です。

アメリカからヨーロッパへ。「好き」の足跡がそのまま残るインテリア
日本にいるはずなのに、どこか外国にいるみたい。そんな雰囲気をつくっているのは、地中海周辺の国にありそうな温かみのあるカラーの壁と、アーチ状の建築空間。そして壁に飾られた、外国製の大きなアートやポスターたち。

奥の壁にはピカソやゴッホといったヨーロッパの巨匠の名画ポスターが飾られ、入り口近くにはポップなアメリカンヴィンテージのポスターが。家具もすべて同じではなく、個性やデザインのこだわりを感じるものばかり。そしてこれらのインテリアは一見すると国も時代もバラバラなのに、マリー・ルウではなぜか調和しているから不思議です。

マスターに話を聞いてみると、店内の家具は昔、アメリカやスペインから直接輸入したものなのだそう。
「若い頃はアメリカのカルチャーが好きだったんだけど、年齢を重ねるにつれてだんだんとヨーロッパの雰囲気に惹かれていってね」
そう笑顔で教えてくれたマスター。
インテリアや家具は、人生の歩みとともにその時々の「好き」を集めてきたこだわりそのもの。古いものを排除せず、時の流れとともに、そのまま積み重ねていったらこの空間になったのだと言います。情熱的な若い頃から落ち着いた大人になるまでの歩みが同じ空間に心地よく同居していて、時を重ねることへの魅力を感じます。
天井に埋め込まれたYAMAHAのスピーカーと、ご機嫌な音楽へのこだわり
ふと天井を見上げると、かなり高い位置に大きなYAMAHAのスピーカーが綺麗に埋め込まれていました。スピーカーの形に合わせて壁がくり抜かれており、創業時にこの音響システムを見据えて建築されたことが伺えます。年代物のスピーカーですが、今も温かみのある音を元気に響かせていました。

「こんな高いところにスピーカーを埋め込んで、もし壊れたらどうするんですか?」と思わず尋ねてみると、
「毎日休まず音楽をかけているから、壊れないんだよ」と笑顔でマスターが答えてくれました。
なんとも粋な答えに、思わずグッとあたたかい気持ちに。機械も人間と同じで、毎日愛情を持って接することこそが長持ちの秘訣なのかもしれません。
店内にはレコードプレーヤーもあり、70〜80年代に一世を風靡したシティポップなどのレコードが大切に並べられています。言葉で多くを語らなくても、本当に音楽が好きで楽しんでいる様子が端々から伝わってきます。

時代を経て、世界中から人が集まる場所に
ご夫婦が長年かけて世界中から「好きなもの」を集めてつくったこの喫茶店ですが、最近はちょっと面白い現象が起きているのだとか。
一周回って最近では、どこからともなく海外や遠方から若い人たちも訪れるようになったそう。 誰かがSNSに投稿した写真を見たのでは、とマスターは推測します。

かつては家具やポスターを取り寄せる形で、こちらから「海外」をたぐり寄せていたけれど、時代の経過とともに今度は「海外」の方からこの場所を目指してやってくるようになった——。時の流れがもたらした、素敵な逆転現象のお話を聞いて、こんなこともあるのかと心が温かくなりました。国境や時代を超えて「良い」と思われるセンスが詰まっているからこそ、さまざまな志向をもった人々の心に響くのでしょう。
多くの飲食店が打撃を受けたコロナ禍でも、この高い吹き抜けと大きな窓でしっかりと換気ができたおかげで、あまりお客さんが途絶えることなく乗り越えられたそう。世間の流行りや多数派に流されず、唯一無二のスタイルでいることが、結果としてお客さんとお店を守ってくれました。

食べきれないほどの大盛りのメニューを前に、「うちは量が多いんです」と話すご夫婦。この「量」の多さも、私たち訪問者に向けられたサービス精神と愛情のあらわれなのかもしれません。

静岡・沼津駅から徒歩15分。まるで異国に迷い込んだような空間でやさしく流れる音楽を聴きながら、時の流れに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
マリー・ルウ(Mary Loo)
住所:静岡県沼津市市場町6-25
TEL:055-932-5941
営業時間:11:00〜18:00
営業日:月・火・水・木・金・土 (定休日:日曜)
支払い方法:現金のみ(電子マネー不可)



