
世界でも類を見ない幼魚の水族館として、2022年のオープンから多くのファンを魅了している「幼魚水族館」。小さくて可愛らしい存在としてイメージされがちな「幼魚」ですが、実は広大な海で生き抜くための知恵と工夫が秘められています。
記事は前編と後編に分かれています。今回は幼魚水族館の「展示の魅力」をテーマに、館長として多数のメディアで活躍されている鈴木香里武(すずきかりぶ)さんにお話を伺いました。
幼魚の魅力は小さな体に詰まった「壮大な物語」

幼魚水族館のテーマは、その名のとおり「幼魚の展示」です。香里武館長が惹かれたように、幼魚には可愛らしさだけでは語れない魅力があります。
(香里武館長)
「幼魚の魅力は生き様にあります。小さな体だからこそ、必死になって身を守らないと広大な海では生き残れません。毒のあるクラゲに突っ込んだり、色や模様を変えて擬態したりと、成魚にはない斜め上の進化をしています」


たとえば、タテジマキンチャクダイは、幼魚と成魚の体の模様がまったく異なります。親子で模様が違う理由は、幼魚が「成魚のケンカ」に巻き込まれないためだそうです。
(香里武館長)
「幼魚には10匹いれば10通りの生存戦略があります。その小さな体に詰まった壮大な物語を、幼魚水族館の展示から知ってもらいたいです」
「小さい」から近づく、幼魚展示が生む心の距離

幼魚水族館の展示には、小さな幼魚を見やすくするための工夫が施されています。たとえば、四角い水槽の背面を曲面にする配慮が特徴的です。
(香里武館長)
「四角い水槽に魚を入れると、ほとんどが端っこに行ってしまいます。とくに小さな幼魚は見えなくなるし、写真も撮れなくなってしまうので、いつでも顔が見られる状態にしたいと思っています」
また、香里武館長は、幼魚の展示をとおして「小さい」からこそ得られる意外なメリットに気づいたそうです。
(香里武館長)
「小さな幼魚を展示してみると、お客さんがすごく近づいて水槽を見るんですよね。近くで見るからこそ、生き物の表情や個性、面白い仕草が見える。物理的に距離が近づくからこそ、心の距離も近づく。お客さんの反応を見て、気づかせてもらったことです」

小さな水槽が並ぶ展示は、迫力ではなく「観察」を引き出しているのだと感じます。私自身も小さな幼魚を観察しようと、水槽内を無意識に覗き込んでいました。
見えないからこそ「見ようとする展示」の工夫は、まさに幼魚水族館ならではの魅力です。じっくりと観察した魚たちの姿は、数日経ったいまでも色や形がハッキリと印象に残っています。
個人的に注目してほしい幼魚水族館の展示
ここからは、今回の取材記事の筆者である「taku」が、個人的に注目してほしい幼魚水族館の展示を紹介します。幼魚水族館に足を運んだときの注目ポイントとして、ぜひ参考にしてみてください。
幼魚と成魚の姿を見比べる


幼魚水族館といえば「幼魚」の展示ですが、成魚との姿形を見比べることで観察する楽しさが倍増します。写真のハナヒゲウツボは、黒色の幼魚から青色の成魚へと変化する姿が特徴的です。
解説なしにパッと見ただけでは、まったく別の生き物に見えてしまうかもしれません。しかし、よく観察してみると、ハナヒゲウツボの特徴的な「花びらのようなヒゲ」が見られます。


大きなヒレが特徴的なハナミノカサゴは、さまざまな水族館でも見られる定番の魚です。しかし、幼魚の姿を見る機会は、水族館に通っている人でも滅多にないと思います。
私自身もハナミノカサゴの幼魚を幼魚水族館で初めて見ました。成魚のように迫力のあるヒレではありませんが、透明感と繊細さを感じられる幼魚ならではの美しさを感じます。
幼魚を観察することで、成魚の特徴をあらためて発見・再認識するきっかけが生まれます。まだまだたくさんの幼魚が展示されているので、ぜひ成魚と見比べて観察してみてほしいです。
食卓でおなじみの魚たち

幼魚水族館には「食べる魚」の展示コーナーもあります。タイやヒラメ、ウニやアワビなど、食卓でお世話になっている生き物たちの「生きた姿」を楽しめるユニークな展示です。
(香里武館長)
「食べる魚のブースでは、研究所や養殖場で生まれた生き物たちを展示しています。切り身の状態で食卓に並ぶ魚たちが生き物なのだと知ってもらい、そして食べることへのありがたさを感じてもらう。そんな体験につながればと考えています」

水槽内を覗いてみると、食卓に並んだお寿司や天丼の姿と一緒に観察できます。海老天丼の上に乗っているバナメイエビを見ると「どんな心境なんだろうか?」と気になります。
海洋ゴミからわかる海と幼魚のこと

クラゲの水槽を覗いてみると、ミズクラゲと一緒にビニール袋が漂っていました。どうやら幼魚を採集するときに、一緒に拾い上げられたものだそうです。
海には「人間が捨てたゴミが浮かんでいる」という問題が取り上げられています。そして、実は海の中にいる生き物たちにも、外からは気づきにくい影響が広がっているようです。

海に漂うビニール袋は、ふわふわと揺れる姿がクラゲに似ています。そのため、クラゲをエサにしている生き物が間違えて食べてしまうこともあるそうです。
海のゴミ問題は遠い場所の話ではなく、身近な日々の行動とつながっています。ゴミが海に流れつかないように、決められた場所にきちんと捨てる。その小さな意識が「広まるといいな」と、ビニール袋が浮かぶ水槽展示を見ながら思いました。
前編の記事は以上です。今回は取材でお伺いした内容をもとに、幼魚水族館の「展示の魅力」について解説しました。後編の記事では、リニューアル後の「展示の変化」をさらに深掘りしていきます。
施設情報
幼魚水族館
住所:静岡県駿東郡清水町伏見52番地1 サントムーン柿田川オアシス3階
電話番号:055-928-6429
営業時間:10:00~18:00(最終入館:17:00)
休館日:なし(年に2回、設備点検の臨時休業あり)




