子どもの頃、近所の人や地域の方から和菓子屋で買ったおせんべいやおまんじゅうなどをいただいた経験はありませんか?
私にとって和菓子屋のせんべいは、昔からどこか身近なお菓子でした。以前から気になっていた長田のお店を帰省のタイミングで訪ねると、そこには須磨から長田へ移転して76年、現在もご夫婦でお店を続ける姿がありました。
昔ながらの味を守りながらも、無理なく続けていくために少しずつ変化してきたお店。
今回は、買い物をしながら伺ったお話とともに、長田の街で長く親しまれてきたお菓子たちの魅力をご紹介します。

子どもの頃から身近だった、長田の瓦せんべい
私にとっておせんべいは、子どもの頃からどこか身近なお菓子でした。
特に瓦せんべいは、近所の人や地域の方からいただくことがあり、食べるたびに「おいしいな」と思っていた記憶があります。そんな私が以前から気になっていたのが、長田の商店街にあるおせんべいのお店でした。
ご近所の方から、「長田商店街のここの瓦せんべいと生姜せんべいが美味しいから買ってきてん。食べるか?」といただくことがあり、「一度、お店にも行ってみたい」と思っていたものの、なかなか訪れる機会がありませんでした。
今回、帰省したタイミングでようやく足を運ぶことに。店内に入ると、優しそうな奥様が出迎えてくださり、商品を眺めながらお話を聞かせてくださいました。
そこで知ったのが、このお店が長田の地で歩んできた長い歴史です。

須磨から長田へ。76年続くお店
現在の場所へ移転してきたのは、なんと76年前。奥様は、「主人と同じ年齢なんです」と笑って話してくださいました。
もともとは須磨でお店を構えていたそうで、その後、2度の移転を重ね現在の長田へ。長い年月にわたって、地域でお菓子を作り続けてきました。須磨から現在の長田へと場所を移しながら歩んできたその歴史は、100年を超えるといいます。
現在は、ご夫婦お2人でお店を切り盛りされています。
ご主人がお菓子を焼き、奥様が焼き上がったせんべいの包装や販売を担当。震災直後まではパートの方も働いていたそうですが、現在はお2人でお店を守り続けています。
「長いことやってまして。なかなか体もガタがきます」そう話しながらも、お2人は笑顔を見せてくださいました。
長い歴史を持つお店に、昔から変わらず受け継がれている味。その一方で、長く店を続けていく中で、少しずつ変わってきたものもあります。その一つが、「生姜せんべい」です。
昔の形を残しながら、続けられる形へ
今回、私が手に取ったのは、瓦せんべいと生姜せんべい。生姜せんべいを眺めながら、「昔は丸かったような……?」と尋ねると、奥様が教えてくださいました。
以前は丸い形に仕上げていたものの、丸める作業には時間がかかります。そこで、現在は平らな形に変更。さらに個包装にしたことで、以前より日持ちするようになったそうです。
長く続くお店というと、「昔から何も変わっていない」という印象を持つかもしれません。けれど、実際にお話を伺ってみると、そうではありませんでした。作り手の年齢や身体の負担に合わせて、無理なく続けられる方法へ少しずつ変えていく。それでも、昔ながらの製法や味は大切にする。変わらないために、変えていく。そんなお店の姿が、とても印象に残りました。

野球カステラと、店内に残る地域の思い出
「ちなみに、変わったカステラもありますよ」そう奥様が紹介してくださったのが、野球カステラでした。野球のボールやバットなどをかたどった、可愛らしい形。

現在では作っているところも少なく、遠方から買いに来る方もいるそうです。西区からわざわざ訪れる方や、野球部やクラブ活動のプレゼントとして、まとめて購入する方も。思わず可愛いカステラの形に私も一つ購入。
一度に作れる数には限りがあるため、タイミングによっては売り切れてしまうこともあるといいます。たくさん購入したい場合は、事前にお店へ電話で予約しておくのがおすすめです。
昔から作られてきたお菓子が、今も誰かへの贈り物として選ばれている。そんな話を聞くと、ただ可愛いだけではなく、長い時間をかけて人の思い出に残ってきたお菓子なのだと感じます。
また、店内には、武将の置物も飾られていました。

気になって尋ねると、「多分、楠木正成公かな?ジオラマも主人の趣味です」
と奥様より。さらに、昔はお店で子どもたちが待っている間に遊べるようにしていたことも教えてくださいました。
お菓子を買うだけではなく、子どもたちがそこで少し時間を過ごす。そんな昔の店の風景が、今も店内のあちこちに残っているようでした。
昔から好きだった味を、これからも
今回、正式に取材の時間を設けていただいたわけではありません。
もともとは買い物をしながら奥様とお話をしていたのですが、お店のことをもっと知りたくなり、最後に「ぜひ記事に書かせていただきたい」とお願いしました。すると、特別に了承してくださりご縁をいただくことができました。
長田に移転して76年。その間には、作られる商品や数も少しずつ変わり、現在は販売していない商品もあります。それでも、ご主人が焼き、奥様が包装し販売するお菓子には、長い年月をかけて受け継がれてきた味があります。
私自身、子どもの頃からいただいてきた瓦せんべい。今回初めてお店を訪ねたことで、いつも何気なく食べていた一枚の向こう側に、ご夫婦が積み重ねてきた時間があることを知りました。
昔から好きだった味を、作っている人の顔を思い浮かべながら味わう。そうすると、いつもの瓦せんべいが、少し特別なものに感じられました。長田の街で長く親しまれてきた味が、これからも静かに受け継がれていくことを願います。

菊水せんべい
住所:兵庫県神戸市長田区六番町8-6
営業時間:9時00分〜18時30分
定休日:不定休
TEL:078−575−1522
※商品のご予約はお電話にて承っています。
数量に限りがあるため、購入を希望される方は事前のご予約がおすすめです。
アクセス:
地下鉄「長田駅」・山陽電鉄「高速長田駅」から徒歩約3分



