もの・こと  |    2026.10.22

かながわ発のエネルギー革命がリードする2040年の未来に向けて-次世代型太陽電池の早期社会実装の鍵を握る5件の実証事業を採択- 

激甚化する気候災害の緩和策と高騰する輸入化石燃料に頼らないエネルギー自給率の向上策として、官民による再生可能エネルギーの導入が全国で推進されています。建造物の多い都市特性を活かした「どこでも太陽光発電」の実現を目指す神奈川県では、政府が2040年までに約20GW(原発20基分の発電量に相当)の導入目標を掲げ、次世代型太陽電池の早期社会実装を後押しする実証事業として、県内5カ所の実証を採択しました。今秋スタートする実証事業の狙いと描く未来について、神奈川県脱炭素戦略本部室に伺いました。

「かながわ発」の新技術を、県内の現場で試す

今回採択された実証事業が対象とするのは「ペロブスカイト太陽電池」と「カルコパイライト太陽電池」です。

ペロブスカイト太陽電池(Ⓒ株式会社エネコートテクノロジーズ)
カルコパイライト太陽電池(Ⓒ株式会社PXP)

どちらも「薄くて軽く、曲げられる」特徴を持つ、神奈川発の次世代型太陽電池です。主原料のヨウ素やセレンが国産調達可能な資源であることからも注目されています。

従来のシリコン型太陽光パネルには、重さや形状の制約から設置できない場所がありました。耐荷重の低い倉庫の屋根、ビルの壁面、カーポート、駐輪場などです。神奈川県は平地が少なく、大規模なメガソーラーを建てられる土地が限られています。載せられる場所へのシリコン型の導入を推進する一方で、載せられなかった場所を埋めていく新しい技術への期待は大きいといいます。

県は今回の事業を「今後の県内展開を見据えた、導入の一歩手前の実証」と位置づけています。次世代型太陽電池はまだ様々なケースでの実証を積み重ねることよるデータ収集が必要な段階にあります。しかし、メーカーでも量産体制が構築されておらず、一つひとつが手作りに近い形で作られるため、導入コストが高いという課題があります。そこで1件あたり2,000万円を上限とする補助金で「最初の一歩」を後押し。実際の建物や設備に設置してもらうことで、発電量や施工のノウハウなどのデータを集めるのが事業の目的です。

県内展開とモデルケースとなる5つの実証

海に面し塩害の影響を受けやすい神奈川県の事情を踏まえた沿岸部の実証が含まれているのが象徴しているように、採択されたのは、今後の県内展開のモデルケースになり得るかという観点で選ばれた5件です。前述した沿岸部のほか、オフィスビルの柵や壁面、車庫、駐輪場、カーポートなど、県内で需要が見込まれる設置場所が実証場所に選ばれました。

①港湾施設の倉庫の屋根

沿岸部の港湾施設にある倉庫の屋根に設置します。耐荷重の制約でシリコンパネルを載せられなかった屋根で、塩害の影響を受けやすい環境での実証になります。

横浜共立倉庫株式会社横浜事業所(藤木EEM株式会社)|ペロブスカイト

②ビルの屋上の柵・壁面 

ビルの屋上の柵と壁面に設置します。屋根ではなく、柵や壁といった「面」を活用する取り組みです。

東京ガスエコモ株式会社洋光台ビル・屋上柵(東京ガスエコモ株式会社)
東京ガスエコモ株式会社洋光台ビル・壁面(東京ガスエコモ株式会社)|ペロブスカイト

③タクシー営業所内車庫の屋根

タクシー営業所の車庫の屋根に設置します。駐車場の屋根としての活用を探ります。

ヒノデ第一交通株式会社磯子営業所(第一交通産業株式会社)|カルコパイライト

④駐輪場の屋根

研究所内の駐輪場の屋根に設置します。

スズキ株式会社横浜研究所内駐輪場(スズキ株式会社横浜研究所)|カルコパイライト

⑤カーポート・ルーフテラス

住宅の前に設けるカーポートなどのエクステリアに設置します。住宅まわりへの展開を見据えた実証です。

グランド工房相模原店(グリーンライフ産業株式会社)|カルコパイライト
グランド工房湘南店(グリーンライフ産業株式会社)|カルコパイライト

発電量だけでなく「施工方法」も大切なデータに

実証で得られるデータは、発電量だけではありません。同じ沿岸地域でも、設置する場所や方角によって発電にどんな違いが出るかを確かめます。それとあわせて重視されるのが、施工方法の確認です。ビルの柵や壁面にはどう取り付けるのがよいのか、駐輪場や車庫の屋根ではどうか。従来のパネルでは想定されなかった場所だからこそ、施工のノウハウそのものが貴重なデータになります。

得られた結果は、公表できる範囲で公開する方針です。実証して終わりにせず、広く事業者に見てもらうことで、県内への普及につなげていきます。

かながわ発のエネルギー革命で「どこでも太陽光発電」の未来へ

次世代型太陽電池には、量産体制、コスト、耐久性や寿命、安全性といった課題があります。専門家からは、社会の期待と技術開発の現在地との間に大きな差があることを懸念する声も聞かれます。県もこの点には留意しています。脱炭素化の切り札としては安価で大量供給が可能なシリコン型を基軸としつつ、設置できなかった場所をフィルム型、ガラス型、タンデム型の次世代型太陽電池で埋めていく「適材適所」が基本方針。新しい技術で都市における導入ポテンシャルを広げることで発電量を上積みできると考えているそうです。

ペロブスカイトは横浜の桐蔭横浜大学で、カルコパイライトは相模原の株式会社PXPが開発した県内発の新技術でもあります。県の後押しでより多くの実証データを集め、産業としても育てていくことも事業の目的のひとつです。

かながわ発のエネルギー革命により県が描いているのは、さらに先の景色です。バスの屋根、信号機、電光掲示板、衣服、携帯基地局など、モビリティやインフラ分野への応用も視野に入れているそうです。黒岩知事が掲げる「どこでも太陽光発電」の実現に向け、選択肢を広げるための一歩となる今回の実証。秋以降の動きに、ぜひご注目ください。

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この記事を書いた人

青葉薫

【神奈川県公認Mediallライター】横須賀市秋谷在住。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で「種まく旅人」としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。横須賀市都市計画審議委員、横須賀市環境審議委員。

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