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人  |    2026.09.23

【広島県福山市】鞆町の空きスペースが新たな交流拠点として今秋オープン!医師が目指す「町の縁側」とは?

2026年の秋、広島県福山市鞆町に新しい交流拠点が生まれます。拠点の名前は「たりたり」。
現在、オープンに向けて皆でアイデアを出し合い、本を持ち寄り、壁を塗って、手づくりで準備を進めているところです。

この場所を整備しているのは、一般社団法人LIGHT HOUSE(ライトハウス)。代表理事で医師の平岩千尋(ひらいわちひろ)さんは、鞆の人たちから「ちひろ先生」と親しみを込めて呼ばれています。

なぜ医師が地域の人たちの交流拠点を作ろうとしているのでしょうか。お話を聞いてきました。

本を読んだりおしゃべりをしたり

「たりたり」は、使われなくなった病院のスペースを活用する交流の場です。10月3日からは週に2回、4階をみんなの場所としてオープンする予定です。

8月には、子どもたちがにぎやかに壁を塗りました。壁全体を塗ったり模様を描いたりして、自分たちの場所を自分たちで作っています。

「地域の人が集まって、静かに本を読んだりおしゃべりしたり、音楽を聴いたり演奏したり、お茶を飲んだり編み物をしたり。『たりたり』はやりたいことをやってみる場所なんです」と平岩千尋さん(以下、ちひろ先生)は言いました。

皆でペンキを塗りました(以下、とくに表記がない画像は、ちひろ先生提供)

鞆の人たちの健康を守ってきた「藤井病院」は、2023年に鞆町から移転しました。移転後も、旧病院の建物の一部では「鞆藤井医院」として診察が続けられました。しかし、ちひろ先生はがらんとした使われていないスペースを寂しく感じていました。

なんとかこの場所を活用できないだろうか。たとえば、鞆の人たちが普段から集まれる場として。あるいは災害があったときの拠点として。

その思いがようやく実現し、建物の4階を「たりたり」として使えることになったのです。

家庭医療専門医が直面した課題

診察中のちひろ先生

ちひろ先生と鞆の関わりは、10年近く前に始まりました。

「藤井病院には、研修のときに半年ほどお世話になりました。その後、藤井病院に赴任して『家庭医療専門医』になったんです。

家庭医療専門医は、眼科や心臓外科といった臓器別ではなく、『人』をみる医師です。その人が普段どういう生活をしていて、誰と暮らしていて、どういうものを食べているのか。そういった人の背景までみて、しばらく様子をみましょうとか、早めに循環器内科に行ったほうがいいとか、総合的に診断します」

背景ごと人をみるためには、鞆の町の人たち、そして鞆という町をより深く知る必要があります。ちひろ先生はいろいろな人に「鞆のことを教えてほしい」と伝え、積極的に鞆に関わってきました。

「私、おじいちゃんやおばあちゃんにモテるんです。アハハ」
とちひろ先生は笑います。確かに、この人懐こい笑顔で頼みごとをされたら、ほとんどの人が「先生が困っとるんなら、わしの知っとることは教えたげるわ」と、思わず動いてしまうでしょう。

「地域とのつながりを作ってくださっていた人が、救急車で病院に運ばれて来たことがありました。そのときにはもう心臓が止まっていて、そのまま亡くなってしまったんです。病院にあまりかかりたがらなかった人で、具合が悪かったのにずっと我慢していたようです。

その人が亡くなったのは、仕方がなかったことかもしれません。でも、亡くなる前に何かできたことはなかったのかな、と思いました。私が直接助けることはできないかもしれない、でも、地域のネットワークが蜘蛛の巣のように広がっていれば、もしかしたら助かったんじゃないか。そう思ったんです」

病院で数分間診察するだけでは、その人の暮らしは見えてきません。それなら、病院と日々の暮らしの間に、人が行ったり来たりできる「縁側」のような場所があればどうだろう。普段からいろいろなことを話していれば、小さな異変を見つけられるかもしれない。それに、そういう場所があれば、きっと、楽しい。

ちひろ先生のその思いに共感したのは、調理師の安田生子(やすだせいこ)さん、藤井公恵(ふじいきみえ)さん、鞆への移住者である葛原生子(くずはらいくこ)さんです。

「ちひろ先生!縁側、いいね!
「やろうよ」

2025年の1月に初めて出会った4人は、その年の5月から週1回の「ちひろの縁側」を開きます。

前列右から時計回りに、ちひろ先生、安田生子さん、葛原生子さん、藤井公恵さん

ちひろの縁側

毎週水曜日に開かれている「ちひろの縁側」(筆者撮影)

現在、「ちひろの縁側」が開かれるのは毎週水曜日。おひるごはんとおやつを交互に準備しています。季節に合わせた温かい料理を食べたり、みんなで一緒におやつを作ったりしながら、おしゃべりに花を咲かせます。

この小さな「縁側」には、これまでに全部で60人ほどが訪れました。毎回楽しみに通う人も多く、のべ人数でいうと500人になるそうです。

ある日のごはん。「安田さんが作るごはんは、とにかくもう、おいしいんです!」とちひろ先生大絶賛

地域の方であれば、訪れる人の年齢は問いません。鞆こども園が近いので、子育て支援の場に来た親子が立ち寄ることもあり、世代を超えた交流が生まれます。

「おしゃべりしながら気軽に健康相談ができるようになりました。セカンドオピニオンのようなことを求められることもあります」(ちひろ先生)

別の日のごはん。食器やグラスは地域の人たちが持ってきてくれたそうです

どんな人が来ているのですか、と聞くと、ちひろ先生は嬉しそうに答えました。

「嫁いできてからも仕事を続けていたため、鞆の町で知り合いを作る機会がほとんどなかった女性がいらっしゃいます。現在は一人暮らしで、誰とも話をせずに過ごす日が多かったそうです。でも、ここに通うようになってから、だんだんとお顔が明るくなって。毎週楽しみに来てくださるんです」

和やかな「ちひろの縁側」

元漁師やカフェのオーナーなどとのつながりも深まりました。

「その人にとっては当たり前でも、私から見ると、魚をあっという間にさばけるのはすごいことです。地域にはそんなスーパーヒーローがたくさんいます。次にやろうとしているのは、その人の特技を生かす取り組みです。

たとえば、お花に詳しい人に育て方を教えてもらって、家の前を花で飾る『花プロジェクト』。花の話をきっかけに『最近調子はどうですか』と声をかけやすくなると思っています。そのほか、月餅作り講座とか音楽会とか、いろいろなヒーローに登場してもらう予定です」(ちひろ先生)

取材日はおやつの日。メニューはあんみつとところてんでした。「今日はところてんだって?」噂を聞きつけて、いそいそと訪れた人も(筆者撮影)

医師としての仕事も忙しいなか、ちひろ先生はどうやって時間を作っているのでしょうか。

「病院勤務でない日にやりたいことをやっているので、むしろリフレッシュですね。私は食べることは大好きだけど、作ることは苦手。ここでは新しい発見がたくさんあるし、心もおなかも満たされています。

おいしいごはんを食べて、誰かと話をし、何かあれば相談できる。それが日々の幸せや安心につながればいいなと思います」(ちひろ先生)

ところてんがてんぐさから作られるってちひろの縁側で初めて知りました、とちひろ先生はケラケラ笑います。そんな先生を、葛原さんたちが優しく見守っていました。

地域全体の見守りがあるまちへ

クリスマスには別の会場でケーキバイキングを開催。大好評でした

ごはんを通じて関係性を作る「ちひろの縁側」は、いわばゼロ段目とのこと。本を通じて関係性を作る『たりたり』はようやく1段目だと、ちひろ先生は言いました。

「ここからさらに、2段、3段と展開していきたいです。
医療はただ、幸せになるためのツールにすぎません。いろいろなプレーヤーがいて、いろいろな役割やものが循環していくと、町はおもしろくなります。そうすれば、安心な暮らしに繋がっていくのではないでしょうか」

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この記事を書いた人

山口 ちゆき

広島県福山市在住のライター。地方で輝く人の物語を伝えたいと、日々取材に飛び回っています。好きなお酒は辛口の日本酒。

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