愛媛県松山市大手町にある「一進流珈琲屋」。
「一進流」という店名には、「一つずつ進む」「一本の道を進んでいく」という意味が込められています。
今回は、先代から店を受け継いだ店主に、一進流珈琲屋の歴史や味へのこだわりについてお話を伺いました。
一歩ずつ進むという想い

もともと先代は、「進和珈琲」に勤めていました。独立する際、そこでお世話になった店の大将から「進」の一文字をもらい、その想いを込めて名付けたのが「一進流」だったそうです。
一気に大きくするのではなく、一つずつ、一歩ずつ進んでいく。
その名前に込められた考え方は、50年以上にわたって珈琲と向き合ってきた店の姿勢にも通じています。
今治から松山へ

一進流珈琲屋の歴史は、1970年に愛媛県今治市で始まりました。
その後、松山市にも進出。ロープウェイ街に1号店を構え、二番町、三番町、花園、平和通りなどにも店舗を展開しました。一番多い時期には、なんと5店舗を展開していたそうです。
その後、最後まで残っていた二番町の店舗が入っていたビルの取り壊しをきっかけに、現在の大手町へ移転。大手町の店舗になってから17年目を迎えています。
長い歴史の中で場所や店舗の数は変わってきましたが、変わらなかったものがあります。それが、味へのこだわりです。
先代がこだわり続けた「浅煎り直火焙煎」

一進流珈琲屋の大きな特徴が、浅煎りのコーヒーです。
現在では浅煎りも広く知られるようになりましたが、創業当時は深煎りや炭焼きコーヒーが主流だったそうです。
そんな中で先代が選んだのは、あえて主流とは違う浅煎りでした。
浅煎りは、ただ豆を浅く焼けばいいわけではありません。ちょうどいいところで焙煎を止めるためには技術が必要で、先代はその技術を極めようと、長年浅煎りにこだわり続けました。
店主は、先代についてこう振り返ります。
「世間の流行り廃りじゃなくて、自分が美味しいと思ったものをずっと守り続けている」
その姿勢は、現在も受け継がれています。
近年は浅煎り珈琲が注目されるようになり、先代が「やっと時代が自分に追いついてきた」と話していたこともあったそうです。
五感で焙煎を見極める昔ながらの直火焙煎

一進流珈琲屋では、長年使い続けている直火式の焙煎機で珈琲豆を焙煎しています。
現在のデジタル式の焙煎機のように、「何分、何度」と細かく設定し、自動的に仕上げる焙煎ではありません。
豆が弾ける音、立ち上がる香り、豆の色、火の状態。
さまざまな変化を五感で感じ取り、「今」というタイミングで火を止めます。長年の経験と勘が求められる焙煎方法です。
店主自身は焙煎を担当していませんが、「難しいんだろうな」と感じるほど、先代が長年積み重ねてきた技術だそうです。
現在は、店主のご主人がその焙煎を引き継いでいます。
先代から受け継いだ「変えない」という選択

店主が一進流珈琲屋を手伝うようになったのは約6年前。それまでは、まったく違う仕事をしていました。
両親が高齢になり、店をやめようかと考えていたとき、「今やめるのはもったいない」と思い、一緒に店を続けることを決めたそうです。その後、先代である父親は亡くなりました。
「もっとちゃんと教えてもらっておけばよかった」
先代が亡くなってから、思うこともあるそうです。だからこそ、今は先代が大切にしてきた味ややり方を守っています。
珈琲の抽出についても、先代が行っていた抽出方法を受け継ぎ、「とにかく変わらないこと」を大切にしているそうです。
「一進流の味」を必要としてくれる人がいるから

コーヒーは嗜好品。苦みが好きな人もいれば、酸味が苦手な人もいます。
一進流珈琲屋の浅煎り珈琲を飲んで、酸味が気になるという人もいる一方で、「ほかの店では珈琲が苦くて飲めなかったけれど、ここなら飲める」と言ってくれる人もいるそうです。
全国には、一進流珈琲屋の豆を取り寄せ、「ここの珈琲じゃないとダメ」と言ってくれるお客さんもいます。

毎日通ってくれる常連客、観光で訪れる人、海外から訪れる人。そして遠くから豆を注文してくれる人。そんな一人ひとりの存在が、長く店を続ける力になっています。
現在の一進流珈琲屋では、店内でコーヒーを楽しめるだけでなく、自家焙煎の豆の販売や全国発送にも対応しています。
実際にいただいた「ジャーマンブレンド」

今回いただいたのは「ジャーマンブレンド」。
一進流珈琲屋といえば浅煎りが特徴ですが、ジャーマンブレンドはアイス珈琲用に焙煎された、店の中では比較的深煎りの豆です。
店主に豆を見せてもらうと、一般的な深煎り珈琲豆のように黒く、表面に油が浮いてツヤがあるわけではありません。

深く焙煎すると、豆の表面に油が出てきてツヤが増します。一方、一進流珈琲屋ではアイス珈琲用であっても、浅煎りへのこだわりが感じられる仕上がりです。

実際に口にしてみると、しっかりと珈琲のコクを感じながらも、後味は重たすぎません。
そして印象的だったのが香り。店主によれば、焦がした豆の香りと浅煎りの豆の香りは違うそうです。
「浅煎り珈琲」と聞くと酸味の強い味わいを想像する人もいるかもしれませんが、一進流珈琲屋では、それぞれの豆の個性に合わせて楽しめます。
一番よく注文されるのは「スペシャル」

豆の種類もさまざま。
キリマンジャロが好きな人、コロンビアが好きな人など、それぞれ好みがあります。その中でも、初めて訪れた人におすすめしやすいのが「スペシャル」というブレンド。
一進流珈琲屋では浅煎りのブレンドがよく出ているそうです。
「どれを選べばいいかわからない」という人は、まず人気のブレンドから試してみるのもよさそうです。

一方で、浅煎りが苦手な人には今回いただいたジャーマンブレンドをおすすめしています。
自分の好みを店主に伝えれば、相談しながら選べるのもうれしいポイントです。
「変わらないこと」を大切にする

一進流珈琲屋では、現在も先代が大切にしていた珈琲の味や抽出方法を守っています。新しいものをどんどん取り入れるのではなく、長年使ってきたものを大切にする。
実際、現在の店舗も以前の店舗から持ってきたものが多く、新しく買ったものは今年壊れてしまったエアコンくらいだそうです。
店主が大切にしているのは、変えないこと。
小さな積み重ねが、一進流珈琲屋の現在につながっています。
56年目の一杯

1970年の創業から56年。
最後に、これから一進流珈琲屋を訪れる人へのメッセージを伺うと、店主はこう答えてくれました。
「浅煎りにこだわって守り続けてきた味を、一度味わってみてください」
50年以上守り続けてきた、一進流珈琲屋の一杯。その味には、先代から受け継がれた「変わらない」という強い想いが込められています。
基本情報
住所:〒790-0067 愛媛県松山市大手町1丁目8−2
電話:089-916-3058
営業時間:9時30分から17時30分
定休日:日曜、月曜
SNS:Instagram
※本記事の内容は2026年9月取材時点のものです。最新の情報は公式Instagramなどをご確認ください。



