
2026年11月28日、神奈川県の横須賀スタジアムで「ハンズホールディングスCUP2026 全国大会」が開催されます。全国から知的障がい者ソフトボールチームが集うこの舞台に、沖縄から出場するのが「琉球ダイナスティ」です。
チームは20年以上活動していますが、「琉球ダイナスティ」の名前を付けてからは、まだ1年ほど。タイミング良くチーム名入りのユニフォームを新調したばかりです。今回の全国大会には、新しいユニフォームで出場します。
沖縄で長年、知的障がい者スポーツに携わってきた沖縄県知的障害者ソフトボール連盟事務局の仲松智さんに、琉球ダイナスティの歩みと、初めて挑む全国の舞台への思いを聞きました。
ルーツは特別支援学校。「じゃあ、部活やるか」から始まった

現在、琉球ダイナスティには高校1年生から40代まで、約30人の選手が登録しています。チームのルーツは、仲松さんがかつて勤務していた特別支援学校の部活動にあります。
仲松さんは工業大学を卒業後、中学校の技術科教員を目指して教員採用試験を受けました。配属されたのが特別支援学校。最初に勤務したのは肢体不自由のある子どもたちが通う学校でした。その後、軽度の知的障がいのある生徒が学ぶ高等特別支援学校へ赴任しました。
そこで気になったのが、放課後を過ごす生徒たちの姿だったといいます。
「全寮制の学校でしたが、当時は体を動かす部活動がほとんどなく、生徒たちは時間を持て余していたんです」
仲松さん自身は、小学生の頃に少年野球、大学では軟式野球に打ち込み、教員になってからも趣味で草野球やソフトボールを続けていたスポーツ好きでした。
「体は元気なのに、体を動かす環境がない。それなら『部活やるか』って、ソフトボールを始めたんです」
ちょうどその頃、知的障がい者のソフトボールが全国障害者スポーツ大会の競技になっていました。
一緒に活動する特別支援学校の教職員などの有志と共に、学校の部活動を母体として沖縄県選抜を結成。2005年には、岡山県で開催された全国障害者スポーツ大会に沖縄県代表として出場しました。しかし、学校を卒業すれば部活動は終わってしまいます。
「卒業してもソフトボールを続けたい」という選手たちがいたため、クラブチームの形で誰でも参加できるようにしました。
その流れが紆余曲折を経て現在までつながり、2022年には「沖縄県知的障害者ソフトボール連盟」が発足。そして現在の「琉球ダイナスティ」になりました。チームは監督・コーチなど複数のボランティアスタッフにも支えられ、仲松さんは現在、広報や事務など裏方の業務を担っています。
野球をやりたかった人たちの「居場所」

現在、琉球ダイナスティの練習は月3回ほど。主に土曜日に集まります。夏は熱中症を避けるため、練習開始は夕方4時ごろです。3時まで仕事をして、そのままグラウンドへやって来る選手もいます。
全国障害者スポーツ大会の沖縄県選抜には15人の出場枠があり、代表選手を決めるセレクションが行われます。しかし、琉球ダイナスティの普段の活動にはそうした枠はありません。
仲松さんによれば、沖縄県内には知的障がい者が日常的に所属できるソフトボールチームがいくつもあるわけではないそうです。
「子どもの頃から野球が好き。少年野球に入りたかった。でも、周囲とのレベルの差などから参加を遠慮したり、入っても長く続かなかったりした」という経験を持つ選手たちも、ここへ集まってきます。
だから仲松さんがチームで何より大切にしているのは、勝敗ではありません。
「一番は居場所かなと思っています。楽しむことや健康増進がメインにあって、その延長線上に、試合に勝つことが出てくるのかなと」
グラウンドに立てば、一人ひとりに打順が回ってきます。守備では、自分のところへボールが飛んでくることもあります。誰か一人だけではなく、一人ひとりに主役になる瞬間があるのが、ソフトボールの良さだといいます。
「まずは、それぞれが主役になってプレーを楽しむ。みんな4番バッターのつもりでやっていますよ」と仲松さん。
練習中には選手同士でプロ野球の話にも花が咲きます。大谷翔平選手の活躍から監督の采配まで、話題はさまざま。
「会話を聞いていると楽しそうなんですよ。仲間がいるということ自体が、彼らにとって生きがいになっているのかなと思います」
「ソフトボールを楽しむため」に頑張れる

ソフトボールを楽しむことは、グラウンドの中だけで完結する話ではありません。チームに所属している選手の多くは、社会に出て働いています。
そこで仲松さんが大切にしているのが、仕事と生活、余暇のバランスです。
「余暇活動を充実させるために、仕事を頑張ろうよ、ということなんです。ソフトボールを続けるにも、お小遣いや給料が必要ですし、健康じゃないとスポーツもできません。『就労と生活と余暇をバランスよくやっていこうね』と、普段から選手たちに伝えています」
全国障害者スポーツ大会の九州ブロック予選は、沖縄県代表として公費で派遣されます。しかし、その他の試合の遠征は基本的に自己負担です。
だから、仲松さんが「ソフトボールを楽しむためには…」と話し始めると、選手たちからは「仕事で稼がないといけないです」という答えが返ってきます。
遠征の際には仕事を休む必要もありますが、会社の人たちが快く送り出してくれるケースも多いそうです。
「この子たちが頑張ると、会社の人たちも喜んでくれるんですよね。仕事も頑張って世の中の役に立てば、さらに周りからも応援してもらえます。そういう人とのつながりや循環もできているのかなと思います」
貴重な全国の舞台で「面白いチームが来たぞ」と思わせたい

琉球ダイナスティが何より大切にしているのは、選手たちがソフトボールを楽しむことです。
現在の課題は守備。それでも、限られた練習時間を苦手なことばかりに使うのではなく、選手たちが好きなバッティングや試合形式の練習を多く取り入れています。
「20点取られたら、21点取ろうと。苦手なことに時間をかけるより、得意なところを伸ばしたほうがいいのかなって」
また、ソフトボールだけでなく、知的障がい者卓球にも携わってきた仲松さんは、ソフトボールには団体競技ならではの難しさがあると話します。
「卓球の場合は一般の大会にも出場できるんです。ルールが同じなので。だから試合経験を積むことができます。その一方で、9人以上が必要なソフトボールはチームをつくること自体が簡単ではなく、一般競技とは一部ルールも異なります」
だからこそ、ハンズホールディングスCUPのような大会は貴重なのだそうです。その貴重な全国の舞台に、どのように挑みたいかを伺いました。
「まずはその場を楽しんでほしい。『なんか面白いチームが来たぞ』と思ってもらえるような爪痕を残したいですね」
さらに、全国の選手たちを見て「同じ知的障がいがあっても、これぐらいできるんだ」と知り、目標を一段上げてほしいと仲松さん。
新しいユニフォームをまとい、初めての全国大会へ。琉球ダイナスティの挑戦は始まったばかりです。



