2026年9月、愛媛県倫理法人会のモーニングセミナーに、CIL星空・代表の井谷重人さん(以下、井谷さん)が登壇しました。
CIL星空とは、愛媛県松山市などを拠点に、障害者の地域生活や自立を支援する団体です。
「福祉をロックに」を掲げ、障害者の自立生活支援や講演活動、政策提言など、幅広い活動を行っている井谷さん。
自身も車椅子で生活する中で、さまざまな経験を重ねてきたからこそ語れる「障害とは何か」「心のバリアフリーとは何か」という話は、障害福祉に関わる人だけでなく、誰にとっても考えるきっかけとなる内容でした。
「福祉をロックに」常識にとらわれない活動

講話の冒頭から、井谷さんらしいユーモアが飛び出します。
自身がヘルパーの支援を受けながら24時間のサポート体制で地域生活を送っていることを紹介し、学校などでの講演を通じて、バリアフリーやユニバーサルデザインについて子どもたちにも伝えていると話しました。
さらに、法律や制度に、障害者の声を反映させるための政策提言にも取り組んできたという井谷さん。
そんな井谷さんが大切にしているのが、「福祉をロックに」という考え方です。
福祉というと、どうしても「真面目」「堅い」というイメージを持たれがち。
だからこそ、常識にとらわれず、面白く、自由な発想で福祉や社会を変えていこうとしています。
事故をきっかけに始まった「自立生活」

井谷さんが障害者の自立生活を広める活動を始めた背景には、自身の経験があります。
事故によって首の骨を折り、頸髄損傷となった井谷さん。
身体が動かなくなった一方で、リハビリによって呼吸機能の回復や車椅子での移動など、少しずつできることを取り戻していきました。
その後、ヘルパーの支援を受けながら地域で生活する「自立生活」を経験します。
そこで感じたのが、
「自分のやりたいことができる」
「人と対等な関係をつくれる」
「身体が動かなくても社会参加できる」
ということでした。
この経験を「もっと広めたい」と考え、2009年に立ち上げたのがCIL星空です。
現在は愛媛県松山市や西条市、西予市を拠点に、障害のある人の自立支援をはじめ、講演やユニバーサル防災、観光バリアフリーなど、幅広い活動を行っています。
松山城の環境を変えた「アピール活動」

活動の中でも印象的だったのが、観光バリアフリーについての話です。
障害のある人にとって、観光を楽しむことは決して当たり前ではありません。
井谷さんは、その一例として松山城を紹介しました。
車椅子での移動が難しい場所に対して、車椅子利用者やボランティアなど約120人を集め、実際に松山城を訪れる活動を行ったそうです。
当時は階段部分に板が置かれているだけで、車椅子が通ると板が動いてしまう状態。
しかし、活動を通じて問題を伝えた結果、その後、石のスロープが設置され、安全に通れる環境が整備されました。
社会は最初から完璧ではなくても、声を上げ、行動することで少しずつ変えられる。
そんなメッセージが伝わってきました。
「心のバリアフリー」は、優しさや思いやりだけではない

今回の講話で特に印象に残ったのが、「心のバリアフリー」についての話です。
井谷さんによると、心のバリアフリーとは単純に「障害者に優しくしましょう」「思いやりを持ちましょう」ということではありません。
大切なのは以下のポイント。
- 障害の「社会モデル」を理解する
- 障害者やその家族への差別をなくす
- 多様な人とコミュニケーションを取り、共感する力を養う
そこで紹介されたのが、「階段とエレベーター」の例です。
車椅子に乗っている井谷さんが、階段しかない建物の2階へ行こうとしても上ることはできません。
ところが、エレベーターが設置されると2階へ行けるようになります。
重要なのは、エレベーターができたことで、井谷さん自身の身体が変わったわけではないということ。
本人は何も変わっていないのに、周囲の環境が変わることで「できない」が「できる」に変わる。
障害は本人の身体だけに存在するのではなく、社会の環境や制度、情報、意識などによって生み出されることもあると分かりました。
「差別するつもりはない」だけでは解決できない

井谷さんは、障害者差別について自身の体験も紹介しました。
研修先で大好きなラーメンを食べようとした際、車椅子であることを理由に「14時ごろに来てほしい」と店側から言われた経験です。
店側には、「混雑している時間帯ではなく、落ち着いた時間に来てもらったほうが、ゆっくり食事を楽しめる」という配慮がありました。
しかし井谷さんは、「今、ほかのお客さんと同じように食べたい」と考えていました。
どちらにも差別をする意図はありません。
それでも、お互いが考える「差別」の基準が違うため、話は平行線になってしまったそうです。
だからこそ、共通の物差しとして法律が必要になる。
この話から、障害者差別を考える難しさと、社会全体で共通認識を持つことの重要性を感じました。
まずは「友達」「仲間」になる

障害には、身体障害(視覚障害、聴覚障害など)だけでなく、精神障害、発達障害、難病など、さまざまなものがあります
「すべての障害について理解しましょう」と言われても、簡単なことではありません。
井谷さん自身も、すべてを知っているわけではないと話します。
その答えとして語られたのが、「友達、仲間になる。対等に付き合う」という考え方でした。
障害者を「困っている人」と決めつけるのではなく、一人の人として対等に関わる。
それが井谷さんの目指す社会の姿です。
「優しさ」だけでは社会は変わらない

講話の終盤、井谷さんが語った言葉が強く印象に残りました。
「優しさや思いやりだけでは、社会はバリアフリーにならない」
階段しかない場所でも、誰かが手伝ってくれれば車椅子の人は上れるかもしれません。
しかし、誰も通りかからなければ上ることはできません。
だからこそ必要なのは、「助けてあげる」ことだけではなく、誰もが同じように移動し、参加できる環境をつくること。
その考え方は、障害福祉に限ったものではありません。
職場や地域でも、誰かが困ってから助けるのではなく、最初から困りごとが生まれにくい環境を考えることが重要です。
「障害」は誰か一人の問題ではない
今回の講話を聞いて、「障害」という言葉そのものに対する見方も変わりました。
「障害者に優しくする」のではなく、「誰もが同じ機会を持てる社会をつくる」ことが大切。
井谷さんの講話は、そんな「本当の平等」について考える時間でした。
ユーモアを交えながら語られた井谷さんの言葉の根底には、障害の有無に関係なく、誰もが自分らしく生きられる社会をつくりたいという強い思いがあります。
まずは身近な人と対等に関わること。
今回のモーニングセミナーは、そんな小さな気づきから社会を変えていく可能性を感じさせてくれる講話となりました。
CIL星空
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