
今年2月、初開催の「ハンズホールディングスCUP 2025 全国大会」に臨んだ福井のビッグドルフィンズ。開幕戦となった東京代表との試合には敗れましたが、「いい試合ができた」と、監督の猪股由武さんは振り返ります。
取材時点で前回大会から約8ヶ月がたち、チームは11月28日に横須賀スタジアムで開かれる「ハンズホールディングスCUP 2026 全国大会」に向けて、練習に励んでいました。猪股監督と坪井久晃コーチに、チームの変化や障がい者スポーツの未来について聞きました。
青空の下、立派なグラウンドで

「一番は、青空に感動したんです」
前回大会の感想を聞くと、猪股監督からは、意外な第一声が返ってきました。
「あの時期、雪がひどかったでしょ。僕らはずっと外で練習できてなかったんですよ。他のチームは多分、外で練習できてると思いますよ。その中で、うちのチームがどれくらいできるんかな、と。実力差もありますし」
と、初戦の東京代表との試合前には不安を感じていたそうです。結果は、0対4の敗戦でした。
しかし、試合内容については「舞い上がってプレーが乱れることもなく、普段通りにできました。よくできたな、と思いますよ」と、選手たちを称えます。
ハンズホールディングスCUPならではの感動もありました。
会場は、社会人野球などでも使われる、立派な設備の等々力球場。先発メンバーが紹介されると、電光掲示板には選手一人ひとりの顔と名前が映し出され、選手たちも「おー!出てる出てる!」と大喜び。
球速も表示され、普段とは違う舞台に胸が高鳴ります。アテンドしてくれた日本体育大学の学生たちのきびきびとした動きも、大会全体の心地いい緊張感をつくり出していました。
猪股監督は、この会場の雰囲気と、大きな舞台でいつも通りにプレーできた経験が、その後の選手たちの自信につながっていると感じています。
5点差から追いつく粘りと、選手それぞれの成長

春から夏にかけて行われた試合で、猪股監督が特に感じたのは、2月の大会ではまだ「新戦力」だった3人の選手がチームになじみ、自分の力を発揮できるようになってきたことだといいます。
さらに、最近のチームの変化として、苦しい展開で簡単に諦めなくなったことも挙げます。
全国障害者スポーツ大会予選の準決勝では、岐阜県代表を相手に0対5の劣勢の中、「最終回2アウトランナーなし」から反撃し、同点まで追いつく粘り強さを見せました。
さらに、ウイングカップ(福井で有志によって開催されている障がい者ソフトボール大会)では、監督も「ダメだと思った」という5点差からの逆転劇を演じたのです。
「慌てなくなったし、簡単に諦めなくなりましたね」と、選手たちの成長に、少し顔をほころばせる猪股監督。相手の強さに気後れするよりも、自分たちにできることをやり切る戦い方に変わってきたと感じているそうです。
選手自身も変化を実感しています。
「守備がちょっとずつ上手くなってきて、楽しい」と話すのは、チーム加入5年目、レギュラーとして試合に頻繁に出るようになって1年ほどの山本選手。
また、以前は泊まりの遠征が不安で「行きたくない」と言っていたそうですが「今は、むしろ行きたいです」と笑顔で話すなど、プレー以外の部分でも変化があるそうです。
チームに加入して約1年の川崎選手は「試合前は『自分のところにボール来るな』と思ってたんですけど、なんとかノーエラーで終えられて、自信になりました」と、前回のハンズホールディングスCUP 全国大会を振り返ります。
今大会では、1番バッターとして塁に出て、チームに勢いをつけたいという意気込みも語ってくれました。
「ここまで求めていいのか」と悩みながらも貫いた指導

選手たちの自信は、日頃の練習の積み重ねにも支えられています。普段の練習や指導方法について語ってくれたのは、坪井久晃コーチ。
猪股監督の中学時代の野球部の先輩で、甲子園出場経験もある坪井コーチは、ビッグドルフィンズのコーチを務めて12年。2018年の福井国体を目指して活動していた頃に、奈良の強豪チームと初めて練習試合をした際の衝撃を、こう振り返ります。
「コテンパンにやられたんですよね。こんなにレベルに差があるのか、と驚きました。このままじゃいけない。ちゃんと取り組まないとこの差は埋まらない。と強く感じました」
しかし、投手の球が急に速くなったり、打者が急に打てるようになったりはしません。そこで取り組んだのは、細かいことの積み重ねです。
ソフトボールは野球と違って、ランナーはピッチャーが投げてからリードを取ります。そのリードを一歩でも大きく取れれば、次の塁への距離が縮まり、セーフになる確率が高まるのです。
そこで、坪井コーチは「毎球毎球リードをしっかり取るように」と、口を酸っぱくして言い続けました。
一方で、その指導方法には迷いもあったそうです。「彼らにそこまで求めていいんかな」と。
その迷いを猪股監督に相談すると、返ってきたのは「障がい者スポーツとか関係なしに、言ってください」という言葉でした。
坪井コーチはこう続けます。
「でもね、すごいんですよ。言い続けると、だんだんできるようになってくるんですよ。さっきの走塁の話でいうと、一球ごとに全力ダッシュするわけです。彼らには、かなりきついことも言ってきたかなと思います。でも、それをずっとやってきた彼らは、すごいなと思いますね」
真剣に戦える舞台を、次につなぐ

猪股監督が障がい者スポーツの現場を長く見てきた中で感じているのは、選手たちが競技者として力を試すことの大切さです。
「スポーツって、真剣にやるから上手くなっていくと思うんです。上手くなると、できることが増えるわけです。できなかったプレーができるようになったりとか。強いチームと試合ができるようになったりとか。それが面白いんですよ」
しかし、障がい者スポーツでは「みんなが大会に出て、交流することが大切」という考えが根強く、選手が競技者として扱われていないと感じるそうです。
猪股監督は、真剣な試合を重ねて切磋琢磨するという交流にこそ、価値があると考えています。そのためには、選手たちが真剣に臨む試合の機会が必要です。
「ビッグドルフィンズだと、全国障害者スポーツ大会の予選が6月ごろに終わるので、その後は目標となる試合が少なくなります。ハンズホールディングスCUPが加わったことで、11月まで試合を見据えて活動できるようになりました」とのこと。
全国障害者スポーツ大会の予選は予備日が設けられていないことが多く、雨で試合が中止になると、選手たちは試合をする機会を得られません。そうした場合、抽選やじゃんけんで全国大会の出場チームが決まります。
目指す大会が増えれば、選手たちが練習の成果を試す機会も増えます。
ハンズホールディングスCUPについては、猪股監督も「大会が一つじゃない、というのは大きいですよね」と、その意義を感じています。
前回大会から一歩ずつ、着実にできることを積み重ねてきたビッグドルフィンズ。今回は、どんなプレーを見せてくれるでしょうか。福井・ビッグドルフィンズの挑戦と、選手たちが挑み続けられる全国大会を、ぜひ応援してください。



