紀伊國屋書店で働きながら数え切れないほどの本と触れ合い、その後コンテンポラリーダンサーとして身体表現の世界に身を投じてきたわたしにとって、「手ざわり」や「物質が持つ記憶」というものは、常に特別な意味を持っていました。

大量生産・大量消費の波の中で、どこか均一で無機質になってしまった現代のプロダクトたち。そんな中わたしは、思わず息を呑むような美しいプロジェクトに挑戦する方に出会いました。
それは、日本古来の「鹿革」を、姫路レザーの伝統技術と「草木染め」によって現代のコンパクト財布へと昇華させた「pravivi(プラヴィヴィ)」の取り組みです。アートやカルチャー、そして日本の手仕事を愛する者として、いてもたってもいられず実行者の方に直接ご連絡を取り、この物語を綴らせていただくことになりました。
今回は、捨てられていた命に再び息を吹き込む、美しくも力強い「日本の伝統と循環」のお話です。
野生の記憶を宿す素材。なぜ今「鹿革」なのか
日本では現在、農林業への獣害対策として毎年多くの鹿が捕獲・駆除されています。しかしその皮の多くは十分に活用されず、廃棄されているという痛ましい現状があります。
実は鹿革は「革のシルク」と呼ばれるほどしなやかで、驚くほどの耐久性と通気性を兼ね備えた非常に価値の高い素材です。古くから武具や甲冑にも使われ、1000年以上前に作られた鹿革の製品が正倉院に現存しているほど、日本の風土と深く結びついてきました。
しかし野生の鹿革には、自然の中を生き抜いてきた証である小傷やシワが必ず刻まれています。

そのため、均一性が求められる現代の大量生産には向かない素材とされてきました。だからこそ見過ごされてきたこの素材に、「pravivi」は光を当てました。
傷もシワも、ひとつの命が生きた美しい記憶として受け入れる。この思想は、北欧のサーキュラーエコノミー(循環型経済)やサステナブルなものづくりにも通じる、極めて現代的で尊いアプローチだと感じます。
一期一会の色。姫路レザーと草木染めの融合
一期一会という言葉は儚いです。しかし職人さんの手仕事や、生き物のありがたみが合わさると、とってもゴージャスな言葉に早変わり。
白鞣しの職人が手掛ける「姫路レザー」
この財布に使われている革は、ただの鹿革ではありません。手掛けたのは、兵庫県姫路市の新敏製革所代表で、一度は途絶えかけた「姫路白鞣し(しろなめし)」の技術を現代に復活させた鞣し職人・新田眞大氏です。
白鞣しとは、化学薬品を一切使わず、水・塩・菜種油などの植物油だけで革を鞣す伝統製法のこと。ただし本製品に使われているのは白鞣し革ではなく、その技術を受け継ぐ新田氏が仕上げた、自然にやさしい植物タンニン鞣しの姫路レザーです。
伝統の技を受け継ぐ職人が、時間をかけて丁寧に仕上げる革。ダンサーとして身体と向き合ってきたわたしには、この「効率を手放し、職人の手と時間に委ねる」というものづくりそのものが、ひとつの美しい身体表現のようにも思えます。
二度と同じ色は出ない。草木染めが描く自然のゆらぎ
さらに心を奪われたのが、その染色方法です。本藍染めの「瑠璃色」や、火と時間から生まれる墨染めの「砲金色(ガンメタリック)」。これらはすべて、草木染めブランド「MAITO(マイト)」を手掛ける染色家・小室真以人氏による高度な「草木染め」によって染め上げられています。

均一な化学染料とは異なり、草木染めは季節や気温、水質、そして革の状態によって微妙に表情を変えます。さらに、裁断する位置によって「群雲絞り」の柄の出方も一つひとつ異なります。
同じ色は二度と出ない。傷の入り方も一つひとつ違う。つまり、手元に届くその財布は、世界にただひとつ、あなただけの「一期一会」のプロダクトなのです。
パッケージまで貫かれた「命の循環」
「pravivi」のこだわりは、財布本体だけにとどまりません。縫製には日本の高い技術を持つ工場を起用し、糸にはペットボトルから抽出されたリサイクルポリエステル「ビニモ」を使用。
さらに商品をお届けする貼箱には、森林を健やかに保つために伐採された間伐材を原料とする「エコ間伐紙」を採用しています。自然からいただいた命を無駄にせず、最後まで大切に使い切り、未来へつなぐ。
財布を手にした瞬間だけでなく、箱を開けるその瞬間から、徹底した「環境への配慮と美意識」が貫かれています。
時間とともに育てる、あなただけの物語
使い込むほどに手の油分がなじみ、草木染めの色合いが深みを増し、やわらかな艶が生まれていく。キズやシワも含めて、使い手とともに刻まれる時間そのものが、この財布の価値となっていきます。
捨てられるはずだった命が、職人の手によって新しい価値を与えられ、わたしたちの日常を彩る。この財布は、2026年8月下旬から9月29日までクラウドファンディングで先行販売が行われました。
募集はすでに終了していますが、草木染めの財布をはじめとする製品や、鹿革や姫路レザーへの取り組みについてはpravivi公式サイトで紹介されています。自然が刻んだ一点物。あなただけの物語を育てる財布に、ぜひ一度触れてみてください。


